小さなお客さん

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彼にも納得出来る理由。 僕はふとアルバイトしてた頃を思い出した。 あの頃、よくパンをもらっていたけど惨めに 感じた事は一度もなかった。 それは何故か。 答えは簡単。 残っていて廃棄を待つだけのパンだから、もらっても構わないだろうと考えていたからだ。 おそらく、おばさんは優しさから「捨てるだけだからもらっていって!」と言ってくれてたんだと思うけど、そんなおばさんの配慮があったからこそ僕は負い目を感じずにいつもパンをもらって帰れた。 本当の優しさはそんなもんなのかも知れない。 相手に悟られないように気持ちを向ける。 さて話を戻そう。 どうやってあの子にパンを買ってもらうか。 悩んでいた僕の目の前に、嫁さんがパンの耳が入った袋を差し出した。 うちの店では食パンは売っているが、パンの耳は売り物にしていなかった。 料理上手の嫁さんがアレンジして、家族で消費していたから。 「何?パンの耳がどうかしたのか?」 すると嫁さんは困ったような顔で言った。 「最近、パンの耳が多過ぎて余ってるの。 すごく安くていいから、こっちで売ってもらえると助かる」 僕はピンッときた。 「確かに売れれば助かるな。誰かに美味しく食べてもらえるのが一番ありがたいんだから」
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