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逸る気持ちを抑えながら角を曲がった僕の
頭の中で思考がストップした。
あれ?のぼりがない。
「焼きたて」って書いてあるのぼり。
他のバイト生から
「焼きたてじゃないのに」とか言われていた
あの、のぼり。
何となく胸騒ぎがしてきた。
角から三件目の店の前で僕達は足を止めた。
そこには「テナント募集」と書かれた紙が張られていた。
僕は上を見上げた。
二階の窓も閉まっていてカーテンもない。
ずっとそこにあると思っていたパン屋と
おばさんは消えてしまった。
おばさんはどうしたんだろう。
赤字が続いて潰れたのだろうか。
この辺だけだはなく、どこも個人商店の経営は厳しいのは確かだ。
大学の近くには洒落たパン屋もあるし、少し
離れたこのパン屋まで足を運ぶ人も少なかったのかも知れない。
お店が潰れたのは仕方ないとしてもおばさんはどうしたんだろう。
もう二階にも住んではいないのだろうか。
僕は店の横の玄関のチャイムを鳴らしてみた。
「ピンポーン」
反応なしだ。
僕はドアの足元に目をやる。
そこには乾いた土が入った小さな植木鉢が隅にポツンと置いてあった。
枯れ果てた花が「おばさんはここにはいないよ」と僕にささやいているような気持ちになった。
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