886人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
「向坂も帰って大丈夫よ?」
千雪ちゃんを見送って、少し首を傾げて言ってくる。
不安そうな顔してるくせに。
「さっきも言っただろ、お前は俺んち」
とやかく言う前に手を引き歩き出す。
抵抗する気がないのかおとなしくついて来るけど。
仕方ないことだけど、張り合いがない。
「千雪ちゃんの前とあたしの前じゃ態度が違うのね」
「会社のヒトの前で本性出すわけないだろ」
「あたしも会社のヒト、なんですけど」
「同期は別」
みんな優しいよな、俺の本性言ってもいいのに誰も言わない。
まぁ、誰も信じないからだけど。
「向坂、ねぇ、あたしホントに大丈夫」
「あ?大丈夫とかそうじゃないとか関係ない」
イラッとした。
頼ってもらえないことになのかなんなのかわからないけど。
まだ不安な目で俺を見てるくせに。
「さき──」
道の真ん中で名前を呼ぼうとするその唇にキスを落として。
俺以外のことを考えられないようにしてやる。
頭の中、俺だけでいっぱいになればいい。
固まってしまった三木の手を再び引き歩き出して数分。
「一楓、いつまでボーッとしてるんだ」
「…え?」
「もう一回キスする?」
「──は?え?ここどこ?」
「俺んち」
なぜか驚いてるけど、確実に二回は言ったと思う。
でも安心したのか、ちょっとだけホッとしたような顔。
最初のコメントを投稿しよう!