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「じゃあ、ホントにつきあうか?」
「え?なんで?」
向坂の側から逃げることができ、手近にあった枕を抱きしめる。
この時になって、起きてからまだ一歩もベッドの上から動いてないことに気づいたけど、まぁいっか。
「一楓の言う通りだとすると、フリだと限界があるってことだろ?」
「イヤ、いい、フリでいい。あなたの隣にいて釣り合うとも思えないし」
枕で顔を隠して現実的なことを言うけれど。
「なんで隠す?」
枕を下げられてしまった。
自分が今どんな顔をしているのかわからないけれど、向坂は柔らかいって言うんだろうか、そんな笑顔を浮かべてる。
フリでつきあってるあたしに見せるような顔じゃないと思うのに。
なのに、なんでだろう…
その顔を誰にも見せたくないって思ってしまった。
「釣り合うとか合わないとか、そんなの関係なくね?肝心なのはお互いの気持ち、だろ?」
「お互い、その気持ちがないのですが」
ない、よね?
あたしは向坂になんの好意も抱いてない。
さっき思ったこととか、鼓動が速かったこととかは、今はまだわからないこと。
「まぁ、確かにそうか」
そう言って、何かを考える素振り。
「俺に惚れても文句は言うなよ」
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