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「はぁ?何いっ──」
キスされるってわかってた。
わかってるのに、なんで動けなかったんだろう?
もう、動揺もしないけど。
「…キスしたのは俺だけど、なんの反応もないのはどういうこと?」
「慣れ?二回も三回も同じでしょう?」
「お、まえ…女の子がそんなこと言うな」
じゃあ、しないでよ。
そう言おうかと思ったけどやめた。
今までのことを思うと、言ってもムダな気がする。
それに手を出さないとは言わないって言われてるし。
「向坂の中であたしは女の子?なの?」
「年下だし、確かに一楓は女の子、だな」
もうすぐ三十になるっていうのに、この扱いは正直歯痒い。
自分が女の子だなんて、微塵も思ってないから。
「そう言えば、名前…会社でも呼ぶつもり?」
なんか恥ずかしくなって、話題を変えた。
まぁ、聞きたかったことでもあるし。
「会社では呼ばないでほしいな?」
少し首を傾げて言えば目を逸らされる。
「…お願い?」
「え?うん、お願い」
なんだろう、向坂の今の行動がわからないんだけど。
なんで顔を押さえてるのか、さっぱりわからない。
でも、わからなくていい気がする。
「会社から離れるとなんでそんなカワイイわけ?」
「あたし、そんなつもり全然ないんだけど」
「無意識か…わかった、会社では呼ばない、二人きりの時だけな」
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