ring.5

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「はぁ?何いっ──」 キスされるってわかってた。 わかってるのに、なんで動けなかったんだろう? もう、動揺もしないけど。 「…キスしたのは俺だけど、なんの反応もないのはどういうこと?」 「慣れ?二回も三回も同じでしょう?」 「お、まえ…女の子がそんなこと言うな」 じゃあ、しないでよ。 そう言おうかと思ったけどやめた。 今までのことを思うと、言ってもムダな気がする。 それに手を出さないとは言わないって言われてるし。 「向坂の中であたしは女の子?なの?」 「年下だし、確かに一楓は女の子、だな」 もうすぐ三十になるっていうのに、この扱いは正直歯痒い。 自分が女の子だなんて、微塵も思ってないから。 「そう言えば、名前…会社でも呼ぶつもり?」 なんか恥ずかしくなって、話題を変えた。 まぁ、聞きたかったことでもあるし。 「会社では呼ばないでほしいな?」 少し首を傾げて言えば目を逸らされる。 「…お願い?」 「え?うん、お願い」 なんだろう、向坂の今の行動がわからないんだけど。 なんで顔を押さえてるのか、さっぱりわからない。 でも、わからなくていい気がする。 「会社から離れるとなんでそんなカワイイわけ?」 「あたし、そんなつもり全然ないんだけど」 「無意識か…わかった、会社では呼ばない、二人きりの時だけな」
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