891人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
イヤ、できれば呼んでほしくないんだけど。
言ってもそこは折れないんだろうな。
そこまで深く関わるつもりはないのに。
「帰る」
「まぁ、待て、つか今何時だよ」
確か千雪ちゃんから電話がかかってきた時、八時だった気がする。
まだそこから三十分も経ってない。
「八時って、おい、今日休みだぞ」
「ごめんなさい」
「イヤ、一楓のせいじゃないし」
「でも、あたしが起こしたようなもんでしょ」
千雪ちゃんの電話で起きた時、確かに寝てたと思う。
「フリでも彼女になったばっかのヤツが隣にいて、爆睡できると思うか?」
めちゃくちゃ爆睡したよ、あたし。
「え、起きてたってこと?ホントにごめんなさい」
「だから、一楓が謝ることじゃないから。そんなヤワじゃねぇし、気にすんな」
ありがとうって言うべきなんだろうか。
わからなくて、起き上がり背伸びをするその後ろ姿を見つめる。
「手を出さなかったご褒美はもらったしな」
こっちを向いた向坂は楽しそうに、自分の指を唇にあてて。
妖艶?
女のあたしから見ても朝から色気を振り撒いている。
「送るわ」
かわいげもなくて何を考えてるかわからない、そんなことを言われるあたしになんで向坂は構うんだろう。
同期だから?
イヤ、でも他のヒトはここまでじゃない。
それに、この間まではホントに接点はなかった。
ストーカーがいるからって、別に向坂に関係ないと思う。
わからない、向坂蓮という人間が。
最初のコメントを投稿しよう!