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相手には、僕がこれを既読であることが瞬時に伝わっているだろう。しかし、誰ですか、とは?
すると次のメッセージが送られてきた。
<あなたは木戸鞠枝さんではありませんよね?>
そのどこか偉そうな、そして決めつけたような言い方に、僕はカッとなって返信を入れた。
<僕は、鞠枝の恋人です。なぜ僕が鞠枝ではないと分かるのですか?>
決まっている。つまり、鞠枝はすぐ向こう側にいるのだ。浅木ハルオの横に。
しばし、浅木は沈黙した。それからようやく現れたメッセージは、こころなしか先ほどよりも弱気に見えた。
<そうか、恋人がいたのですね>
こいつ、何を言っている。僕はいらつきながら返信した。
<とぼけないでくれ。鞠枝が僕についての悪口を書いて、あなたはそれを読んで笑っていたじゃないか。このトーク画面の履歴にそう残ってる>
<つまり彼氏さん、あなたは今、鞠枝さんのワイアを覗き見しているというわけですね>
そう言われ、痛いところを突かれたこともあり、僕は完全に頭に血が上った。
<あのな、浅木ハルオさん、自分の方がよほど後ろ暗いことをしているとは思わないのか。いい度胸だ、一度顔を見せてもらいたい。とっくりと話をしようじゃないか>
<いいですとも。いつ、どのように?>
できるだけ早いうちに済ませたい。
僕は、<では今日これからでどうです。十五時に日比山公園の東側のベンチで。場所は、住所をペーストします>と入れた。
<ああいえ、分かります。承知しました。そうそう、鞠枝さんのスマホも持ってきてください。必要になると思うので。では>
浅木ハルオは、あっさりと応じた。
おや、と僕は怪訝に思った。鞠枝と一緒にいるのであれば、そんなに簡単に一人抜け出してこられるものだろうか。それとも僕の思い違いで、二人は今日会っているわけではないのか?
どちらにせよ、僕をないがしろにして逢引しているのは確かなのだ。
僕の方が弱気になる必要はない。鼻息荒く、黒のオータムコートをひっかけ、僕はマンションを出た。
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