世界5位

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 ある家族の元に、赤ん坊が産まれた。  はじめ、彼は乳を飲んでいるか、眠っているかのどちらかであったが、そのうちに覚醒時間も増え、あたりをキョロキョロと見ていることが多くなった。 「何を見てるのかしらねえ」  彼のことが可愛くて仕方のない母親が言った。 「パパのことを見てるんだよな? いつも高い高いしてあげるからな、パパのことが好きなんだ」  赤ん坊の誕生を誰よりも喜んでいる父親が言った。 「ううん、あたしのこと、見てるんだよ」  すると、自慢げに女の子が言った。 「だって、あたし、お姉ちゃんだから、いつも歌を歌ってあげてるもん」 「オレだって遊んでやってるぞ」  今度は男の子が言った。 「二人で怪獣ごっこするんだ。歌なんかより、怪獣のほうが好きに決まってる」 「ええー、あたしだよ」 「オレだ」 「ほら、ケンカはやめなさい」  母親が優しく諭し、赤ん坊を抱き上げた。 「ボク、みんなのことが好きですよーって」 「ぶう、ぶう」  赤ん坊はくちびるを震わせ、何事か答えた。 「ほら、そう言ってる」  母親が笑うと、ホントだ、ほかの四人も笑った。  しかし、実のところ、赤ん坊の思惑はほかにあった。  最近、彼が懸命に見ているものは、自分が産まれ落ちたこの「世界」というものだった。生まれたからには、この「世界」で一番になる、彼は赤ん坊ながら、偉大な志を持っていたのだ。  しかし、どうやらこの世界にはたくさんの人間がいるらしい。その中で、自分は一体どれくらいの位置につけているだろうか、赤ん坊は考えた。  考えてみると、どうも現時点で自分は一位ではない。なぜなら、この家にいる四人の人間。その中でも、特に乳をもらっている人間には、この先も頭が上がらないだろう、そう思ったのだ。  しかし――彼はふと考えた。あの高い高いをしてくれる人間。あいつにもなかなか世話になっている。あいつに抱っこされると、景色が変わって面白いからな。こいつにも頭は上がらない。  赤ん坊はさらに考えた。  それなら、歌を歌ってくれる人間はどうだ。あの歌はなかなか心地よくて、聞いていると眠くなってしまう。しかし、もう一人のうるさいあいつも、ぞくぞくする手触りの怪獣とやらを貸してくれるからな。甲乙つけがたいが、やはり頭は上がらないだろう。  ふむ。赤ん坊は少しの間考えて――それから、ふああとあくびをした。  どうやら、この四人には、この先どうやっても頭が上がらない。ということは、彼らの下の僕は五位。一番になれるに越したことはないが、世界五位ってのもなかなかだぞ――そう思いながら、眠りについたのだった。
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