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「……何だ、これ」
PCで資料を見ながら、事務机の自席で食べる昼メシ。
使い古したアルミ製の弁当箱の蓋を左手に、思わず固まった。ランチョンマット代わりに敷いているハンカチも、少し褪せた藍色に白のストライプ柄――長年愛用している僕のものに、間違いない。
「わぁ、課長のお弁当、可愛いー!」
気を利かせてお茶をいれてくれた、経理の朱里チャンが黄色い声を上げる。
「あっ、いや……これは」
覗き込まれて、動揺が走る。慌てて隠しても、かえって怪しいから、観念して蓋を横に置いた。
「うわ、愛妻弁当、ラブラブですね?」
「課長、今日、記念日なんですか?」
「でも、これ……何なんですか?」
社食に向かいかけていた社員達が俺のデスクに集まって、口々に質問を投げてくる。
「……何なんだろ。別に記念日じゃないし。第一、今朝は奥サンの方が先に出たから、顔見てないし」
半透明の桃色の……多分、寒天。その中に、赤いハート形の何かが埋まっている。
弁当箱に入っているから「昼メシ」なんだろうが、明らかに米粒の姿はなく。
首を傾げつつ、興味津々な周りの視線に押されるように、隅っこに箸をつける。
――ぷにっ
うわ。ちょっと嫌な感触に眉をしかめる。
――つるん
「あ」
「課長、よろしければお使いください」
思った通り、つまみ上げた物体が、箸の隙間をすり抜けて、全体に飲み込まれる。その一瞬を待ち構えていたように、部内最年長の富士嵜女史が、コンビニで付けてくれるクリーム色のプラスチックスプーンを差し出してきた。
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