Side信介

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Side信介

 別れ話をするときは、素面でなんかいられない。自分から切り出すときは特に。俺から告白したくせに俺から振るなんて我儘すぎる。そう思うのはやはり、春樹の言うとおり俺は真面目すぎるのだろうか。 「やぁ、信介。なんだ、もう一人で始めてんの?」  行ったこともない居酒屋のチェーン店。その一室の襖を開けて、春樹の第一声がそれだった。眼の前のテーブルにはジョッキが一つ空になった状態で置いてある。しかし実際はビールを二杯飲んでいた。  春樹が遅れたわけじゃない。春樹はフラフラと捉えどころのない性格だが、時間だけは遅れたことがないのだ。特に俺との約束には。 「よっと。おつまみ、何頼んだ?」 「頼んでない」 「駄目だよ、胃が荒れるだろ。さてと、なんにしよっかなぁ」  どうせ決まってるクセに。春樹はいつも、最初は梅サワーと唐揚げを頼むんだ。それがわかってしまう自分が悲しい。長くも短くもない付き合いだったか、春樹の好みはよく覚えていた。  俺の予想通り春樹は梅サワーと唐揚げを頼み、俺はビールのおかわりを注文する。そうして店員が襖を閉めると、俺たちは向かい合って黙り込んでしまった。  俺と春樹は、対称的な人間だった。それは容姿も、考え方も、喋り方も。まるで歌舞伎の女形のような綺麗な顔の春樹と、自分で言うのもなんだが引越バイトのおかげで逞しい身体の俺。飄々とその日暮らしのような春樹と、真面目で堅実な俺。よくもまぁ俺もこんなのに惚れたもんだと、自分自身ビックリしているのだ。  春樹が何も話さないものだから、こちらもなんだか気まずい。あぁ、もう少し酔ってから言い出したかった。そうは思うものの、先延ばしにしたって仕方がない。俺は意を決して、口を開いた。 「話があって、今日呼んだんだ」 「確かに、そう言われて来たんだけど?」 「春樹……、俺たち、別れよう」   春樹の表情はピクリとも動かず、まるで最初からわかっているようだった。俺はそれが少し憎らしい。
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