Side信介

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 俺たちの関係は、決して悪くはなかった。そう、ただ"悪くはなかった"だけなのだ。最高でも最低でもなく、すごく宙ぶらりんな評価。友達よりは親しいが、恋人であるという確かな実感もない。 「だから言ったじゃないか。君のその感情は、恋なんかじゃないよ、って」  春樹はあっけらかんと言ってのける。まるで友人の勘違いを指摘するかのような気軽さだった。俺はその言葉に、この一年間何も進展がなかったという事実を突きつけられる。この一年の春樹への想いが全て無駄になった瞬間だった。 「君はさ、フラフラしてる俺のことが性格的にほっとけなかっただけなんだよ。例えるならさ、そうだなぁ……。猫が目の前でチョロチョロ動くものがあったら飛びかかるだろう? それとおんなじ」  そう言って春樹は、テーブルの上で人差し指を素早く移動させた。しかし俺はそれを追いかけたいだなんて微塵も思わない。そもそも俺は犬派だ。猫なのは春樹の方だろ。俺が春樹を睨みつけると、肩をすくめて指の動きを辞めた。 「気付いたんだ。俺は春樹の運命の人じゃない」  真剣な俺とは裏腹に、のどが渇いたのか鞄からペットボトルのお茶を取り出して飲みだす。ちゃんと俺の話聞いてるのか不安になってきた。しかし俺は続けて口を開く。 「キスも、セックスも、いっぱいした。でもなんか、春樹との距離が縮まってる気がしないんだ」  いくら肌を重ねても、全然近くにいる気がしない。それどころか妙に遠慮してるというか、どこかサービスをしているような態度にすら見えることがある。今思い返せば求めるのはいつも俺の方で、いつしかそれが不満に思うようになったのだ。それも原因の一つだろう。  そして何より別れを決心したのは、俺自身が悟ったからだ。このまま十年一緒にいたって、俺たちは愛し合えない。いや、春樹に愛してもらえない。それがわかってしまったのだ。そんな悲しい思いをするならば、後悔しない今のうちに涙を零したほうがいいような気がする。
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