Side春樹

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Side春樹

 話ががあるから会えないか。信介からそんなメッセージが送られてきたとき、あぁ、別れ話をされるんだろうな、と思った。よく一年も付き合ったもんだ。いや、結構保ったほうだと思うよ。  指定された居酒屋に行けば、信介はすでに何杯か飲んでいた。酒の勢いに任せないとやってらんない、って感じ。それに可哀想だとは思う。でもこれ以上の感想なんて出てこないんだから仕方がない。  たしかに俺が悪いのは全面的に認めるけどさ、だからって信介に非がないわけでもない。だからそんな悲しそうな顔をされると、どうすればいいのか困るんだよ。そんな泣きそうな顔をされたって、決めたのは自分自身じゃないか。 「だから言ったじゃないか。君のその感情は恋なんかじゃないよ、って」  そう、俺はきちんと忠告をした。俺に関わるとろくな事がないよ、って。傷つくのは信介なんだよ、って。それを無視したのは信介自身だ。こんなのどうしようもない。それともはっきり言ってやればよかったのかい? 「ごめんね、俺の恋心はある人が離してくれないんだ」って。  そういえば一年前に告白されたのも、確か居酒屋だったな。まぁ厳密に言えば、居酒屋の前なんだけど。そんなことはどうでもいい。  あれは確か、ゼミのお疲れ会の時だった。みんな酒が入って、でも信介だけは烏龍茶ばっかり飲んでて。そんでみんなが、俺がナヨっとしてるだ女っぽいだと軽口を言って、それを大真面目に糾弾している。  その時俺は、馬鹿なやつだなぁ、て思ってた。まぁ今でも少し思ってる。馬鹿みたいに真っ直ぐで、正直で。でもまさか俺にまで怒るとは思わなかったよ。 「言い返したりはしないのか?」  みんなをタクシーに突っ込んだ後、残された俺に信介はそう尋ねてきた。それにただ肩をすくめてみせる。 「いちいち突っかかってたらメンドーでしょ」 「だが、言われて悔しくないのか?」 「全然。それにさ……」  俺は振り向きざま、勢いをつけて信介の口元に拳を突きつける。それに面食らったのか、信介は瞬き一つしなかった。それに俺は気分が良くなる。 「本気でムカついたらぶっ飛ばせるし」  それの何が刺さったのか、信介はこの数分後に好きだと告白してきたってわけだ。
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