Side春樹

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 まぁね、なんで俺がそこまでキッパリと断れなかった言うとさ、少し期待しちゃったんだよね。信介だったらさ、あの恋が忘れられるんじゃないかって。だから信介の気の済むまで軽く付き合ってやるか、みたいなノリでOKしちゃったんだ。  そんでさ、恋人になったからにはそうゆう事もするわけじゃん。求められればキスもセックスも、それこそ柄にもないデートだってした。良かれと思ってサービスもいっぱいしてやったさ。    だけどやっぱり、本気にはなれなかったんだよねぇ。  一回だけ、信介がその人のことについて聞いてきたことがあったっけ。あんまり思い出したくもなかったけど、聞かれた以上答えないわけには行かない。恋人の間で嘘はご法度だ。  その人は高校の時の教師で、俺達が初めての担任だったんだ。イジメられてるとか、クラスで浮いてるとかでもないのに、その人は俺のことをよく目にかけてくれた。結構踏み込んだことも知ってる仲にもなって。俺はその人の特別なんだっておもうようになって。まぁ、俺も若かったんだよ。  ある日突然結婚するって聞いたときは、目の前が真っ白になって何も考えられなくなった。裏切られたと思ったし、いっそ嫌がらせに死んでやろうかとも思った。この一年のトキメキは何だったんだろうって。まぁ皮肉なことに、今度は俺が信介にそんな気持ちにさせてるんだけど。  それ以来俺は、まるで恋心をその人に持っていかれたかのように空っぽになっちゃって。誰とも好きになれないし、本気になれない。  いや、これは言い訳だな。本気になって、また突然去っていかれるのが怖いんだ。人を信じるのが怖い。だから必死で自分を守ってただけなのかもしれない。 「信介……」  いつの間にか信介は寝たらしい。テーブルに頭を載せ、規則的な寝息を立てている。その眉間にはシワが寄っていて、やはり辛そうだった。 「臆病なのはお互い様だったってわけだね」  俺は謝罪の意味を込めて、信介の額に最後のキスを落とした。                 完
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