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独白6
そして、給食でコッペパンが出る度に、私はその呪文を唱えるようになりました。
スポーティなズボンのポケットもその役目を果たす機会は無くなり、いっそスカートで登校すればいいのにとも思いましたが、私の好みを押し付けるのはよくありません。
彼女には、彼女の不文律があるのです。
それ故に彼女は、誰よりも気高く、可憐なのです。
以降、私と彼女は昼休みの丸々を教室で共に過ごすようになりました。
次の授業の予鈴が鳴り響くと同時に、私が彼女の残したコッペパンをステンレスの給食バットに戻し、彼女は涙を拭き、私は彼女の机を拭くという役割分担も自然に出来あがりました。
次の授業までのわずかな時間に、給食室と教室を二往復するというのが私の仕事に追加されてしまいましたが、あの瞳を独占できると思えば全く苦にはなりません。
そんな日々が、二週間ほど続いた頃でしょうか。
私は、気づいてしまったのです。
私が彼女を欲し独占していることが、ひょっとしたら、彼女自身を傷つけてしまっているのではないか、と。
あんなにも守りたかった彼女を、いまや傷つけてしまっているのは、もしかすると、この私なのではないかという事実に気がついてしまったのです。
だから私は彼女を食べたのです。
彼女を守るには、一体になって、私が外側の理不尽を全て請け負おうと思ったのです。
彼女は私の内側で、いつまでもあの可憐な笑顔のまま、美しくスポーティなままでいられると思ったのです。
一聴すると、あなたには馬鹿げたように聞こえるでしょうが、愛さえあれば、これは至極当然の事なのです。
アフリカのとある民族でも、愛する人が亡くなればその人を食し、その人と一体になり、またその人も誰かに食され、誰かの体の中で共に、永遠に生きていくという話を聞いたことがあります。
私も彼女を愛していると思っていましたし、そうなるものだと思っていたのです。
私はその愛を確かめる為に、出所した後には一目散に彼女の墓前に向かい、レーズンパンを彼女と共に食べるつもりでおりました。
私は恋に陥れられ、彼女を愛してはいなかったのです。
私はレーズンパンが嫌いなままでした。
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