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赤髪の闖入者
―――聖職者を名乗るリアムは今夜も眠る前に神に祈りを捧げる。
彼は手を羽のように織り込んで瞼を閉じて。幼き頃より親しんできた祈りの言葉を口にする。
……無粋な乱入者がドアをぶち破って来るまでは。
爆発音に似たその爆音は文字通り、外から内側に建物を吹っ飛ばした。
「嗚呼」
静寂の夜が一変したと彼は深い溜息をついて、土煙の上がるそちらを眺める。
木造のドアだったモノ、破片を踏みしめながら立ち入ってきたのは。
「ここに吸血鬼が潜んでいるらしいわね。大人しく引渡しなさい!」
紅い髪は長く、緩やかに波打ち艶めいている。その瞳も同じく紅く燃えていた。
そう、それは美しい少女。装備や構えた武器は一通りしていたので、恐らく猟師であろう。
しかも魔物専門に猟るタイプ。まだ年端の行かぬ女であるのに。その手には小型銃を弄びながら、顎を上げて背筋を伸ばし挑戦的に紅い瞳を煌めかせるのだ。
「ええっと……どちら様で」
まるで動じることなく表情も崩さないリアムに、彼女は大きな舌打ちで応えた。
「なによアンタ……人間?」
「私ですか? 見ての通り。この教会の牧師、ですけど」
いきなり扉を吹っ飛ばして押し入ってきた、この美少女猟師に平然としている牧師。
彼女がヒク、と眉間に皺を寄せる。
「アンタ、人間じゃあないわね」
「いやいや。人間ですよ。しがない田舎村の聖職者ですってば」
その言葉に嘘はなかった。確かにこのリアムという男は若いのに、こんな過疎化して村人自体が減っている村のはずれにある古い教会の牧師として派遣されてきたのだ。
何も無い村。少ない村人。
しがない、と言うに相応しい。まるで隠居老人のような暮らしぶりである。
「それより何なんですか。ただでさえボロい建物を壊すなんて……ついこの前雨漏り修理させたのに」
ブツブツと文句を言いながらドアの残骸を手に取って首を傾げる青年は穏やかそのもので。
少女、ライラはもう一度盛大に舌打ちをする。
「どうやらガセネタ掴まされたみたいだわ……邪魔したわね」
背を向けて立ち去ろうとする彼女に、リアムは信じられないと言った様子で言った。
「貴女、これ放ったらかしで帰るつもりですか!? 貴女がぶち壊したドアを放置して? 貴女こそ人間なんですか!」
「……はァ?」
その瞳は穏やかながら、まるで悪い事をした生徒を叱る教師のような色をしていた。
ライラは何度目かになる大きな溜息を吐いて、彼の方へと向き直った。
「ハイハイっ、やりゃあいいんでしょ! やりゃあ」
「そうです。やれば良いんです」
そう満足そうに破顔するリアムは、少女と同じくらいか。下手したらもっと若く見えた。
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