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「……ていうか。アンタ何者よ」
「だから、ここの牧師ですってば」
―――この会話が何度か繰り返された。
瓦礫を拾い、床を綺麗に掃除して。ただの穴となったドアを適当な板でとりあえず塞ぐ。
「うーん。とりあえず、後で直させようかなぁ……ご苦労さま、ありがとう。えっと……」
「ライラよ……礼はいいわ。あたしがしたことだから」
リアムが差し出した布を受け取り、ライラは汗や汚れを拭いながら肩を竦めて答える。
「君は猟師かい?」
彼は努めてなんでもない風に訊ねた。
ライラの方もなんの警戒心も持たず答える。
「ええ、魔物専門のね……ある吸血鬼を追ってるの」
「吸血鬼?」
「そう。最近ここら辺を荒らし回ってるのよ」
苦々しい顔で爪を軽く噛む。この少女の癖らしい。
「どんな奴なんだい?」
「その名の通り、夜な夜な女の血を吸いに来る奴よ。しかも……厄介なのはその美しい容姿。数多くの女を虜にして、自ら血を差し出す者もいるくらい」
「へぇ。虜に、ねぇ……」
リアムの懐疑的な視線に彼女は鼻白んだ顔で、軽く睨みつける。
「本当の話よ! あたしだって見たんだから!」
「見た? 本当に?」
確かに吸血鬼というモノは存在する。夜な夜な人の血を吸いに魔物である。
しかしその多くが眠っている間にこっそりと吸う、蚊のような生き物だ。
しかし少女の追っている『美しい吸血鬼』は少し種類が違うと、彼女は語る。
「あの緑の瞳は誰も抗うことが出来ないの。夜の闇に映える金色の髪に、人形のような綺麗な顔。妖しい色香でその腕に抱かれるともう堪らなく幸せなの……」
うっとりとした少女の顔は完全に大人の女のそれであった。
そんなマセた少女をリアムは何か言いたげに見ていたが、浅く息を吐いてかぶりを振ると一つだけ忠告しようと口を開いた。
「君が何故、その吸血鬼を探しているのか知らないし知りたくないけどね……やめた方がいい。さっさとお家にお帰り」
「何よ、知ったふうに! あたし、彼に会うためにわざわざ隣町からこんな田舎へ来たのよッ! 」
その言い方が気に触ったらしい。
青年聖職者に掴みかかった少女は怒鳴り散らす。
「だいたいアンタなんなのよぉぉッ!」
「……だから言ってるじゃあないか。牧師ですって」
―――再び押し問答を始めた彼らの後ろに、大きな影が伸びたのは直後であった。
「……ヒッ!」
少女ライラは短い悲鳴を上げる。
そしてすぐに、その身体は静かに重々しく崩れ落ちた。
背中に大きな風穴を空けて。
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