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「何するんですか、あんた。せっかく掃除したのに」
リアムはその『影』に向かって文句を垂れる。
「……お前がその女と仲良くしてたから」
『影』はそう言葉を零すと、むっつりと黙り込む。
それはいつしか大柄な男の姿になった。筋骨隆々なソレは神が創りし彫刻のような肉体美に加えて、恐れを抱く程の美貌の男である。
「ジョン、元はと言えば君のガールフレンドの一人だろう?」
「元、だ」
「ふぅん?」
男の名はジョン、彼こそ美しき吸血鬼である。
「無類の女好きだった吸血鬼さんが、つまらない男に一目惚れして、教会に入り浸って数ヶ月……君を探しに来たファンの娘達が鬱陶しくてたまらないんだけどねぇ」
「……つまらない男じゃねぇぜ。お前は、可愛い奴だ。愛してるぜ」
蕩けるような魔物の声や情熱的な瞳に、彼は動じることも臆することもしなかった。
なんならもう慣れきっていたからだ。
「軽薄な男ほど愛を語りたがるんだよね! ほら、さっさとソレ片付けて。そしてドアも直しといて」
「むぅ」
「してくれたら……ね」
―――不満そうに呻く吸血鬼の頬に、若い聖職者は触れるだけの口付けを落とした。
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