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蛇足的事後
「変態」
吐き捨てるように言ったのは白い肌の男だ。
「良かっただろう」
そう返したのは吸血鬼の男。
「殺す気か」
と聖職者は魔物を睨めつける。
しかしこの美しき吸血鬼はどこ吹く風で、聖書をぱらぱらと捲って流し読みをしていた。
「お。これ面白いな」
「……笑い話なんて書いてないけどね」
夜はすっかり明けて、白々と森の木々を照らしている。
「また噛んでくれなかった」
恨みがましい表情で言い、シーツの海に沈む白い裸体。気だるげな色香を纏うそれは、とても神の信徒とは思えぬほどの姿である。
(悪魔に籠絡されつくした憐れな子羊と言ったところか)
リアムはそう自身を卑下した。
しかし口に出してこの魔物を詰るつもりもない。何故なら、彼は最早進んで堕ちてきた気があったからだ。
「まだ早い、お前には」
そう嘯く吸血鬼の完璧な肉体を傷付けてしまえたら、と彼は思う。
彼の食料となって、その体液を分け合えるのならば。同じ種族となり、共にこの神の檻から逃避できるのなら……リアムの妄想は常にそこで終わってしまう。
(いつか、貴方のモノに)
―――まだ辛うじて聖職者である自分を攫って捕えてくれるのなら……と彼はこの体温を間近で感じるにつけ思うのだ。
……遠くで鶏が鳴いた。
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