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0.金木犀の夜
今でも忘れない。あれは金木犀の香りに包まれた夜。
「マリエ……行かないで……!」
その夜、ひとりの娘が住み慣れた地を去った。
「僕を、ひとりにしないで……」
そして、そのときから、残された少年は独りになった。
寝台の上で少年は目を覚ます。
心臓の鼓動が速い。喉がとても乾いている。
「今のは、夢……?」
昔の夢を見ていたのだと気がつくまで、長い時間がかかった。
今夜も、金木犀の香りが辺りを包み込んでいる。あの夜に、よく似ている。
「マリエ……」
あれから、一体どのくらいの時が経ったのだろう。何年経とうと、少年の口から漏れる名前は変わらない。
「マリエ……また会いたいよ……」
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