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8.つながる気持ち-2
空が明るくなるにつれて、ゆっくりと夜の闇が晴れていく。
「マリエのこと、いろいろと教えてくれてありがとう」
「こちらこそ、君に会えて良かったよ。おかげで気持ちの整理がついた」
薄明るい玄関で、ジェムと永一郎は言葉を交わした。その言葉の中には、すでに肉親のような親しさが存在している。
「お嬢さんも、お元気で。これからも、ジェムくんと仲良く暮らしておくれ」
「ありがとう。心配しなくても、私がずっとジェムのそばにいるわ。大丈夫よ」
スカーレットも笑顔で永一郎に答える。
「真一郎」
息子の名前を呼ぶと、永一郎は急に真剣な面持ちになった。
「わかってるよ。俺、ちゃんと千秋に謝りに行こうと思ってる。千秋に言っておきたいことがあるんだ」
永一郎はうなずくと、真一郎に白い封筒を渡した。
「これは?」
「父からの餞別だ。これしかないが、受け取ってくれ」
真一郎がおそるおそる封筒の中を見ると、入っていたのは、やはり予想通りのものだった。
「親父……いいのか……?」
「これだけあれば、当分は都会で暮らしていけるだろう? 都会で暮らすのか、この家に戻ってくるのか、それはお前が自分で決めればいい。いや、自分で決めなさい」
「わかった。親父、ありがとう。大事に使う」
真一郎は自然と父に頭を下げていた。こんなことをするのは、初めてだと思う。
父が自分をとても大事に思ってくれている。昨夜の出来事で、それを知り、実感を持つことができた。とてもありがたくて、うれしかった。
「しばらく向こうにいるつもりだけど、正月とか、必ずまた帰ってくるから。親父も元気でいてくれよ」
「ああ、楽しみに待っているぞ」
父が大きくうなずいた。父の目は明るかった。
三人は永一郎に大きく手を振って別れ、住宅街の中を歩いていく。途中に空き地を見つけたジェムは、そこで魔法陣を描き始めた。
「真一郎。あの場所でいいの?」
「ああ。頼む」
ジェムは泣きはらした顔のままだったが、真一郎に話しかける声は、いつもとあまり変わらない。真一郎もいつも通りの調子で答えた。
「千秋さんに謝って、許してもらえなかったらどうするの?」
魔法陣をのぞき込みながら、スカーレットが尋ねた。
「そのときはそのときだ。あきらめて、別の道を探すさ」
「別の道って……? 何か考えがあるの?」
「ない。まあ、でも、なんとかなると思うんだ。親父からの餞別もあるしな」
「なんだか心配ねえ。本当に大丈夫なの?」
スカーレットはいぶかしげな目で真一郎を見ている。それを横で聞きながら、ジェムが少しだけ笑った。
「大丈夫だよ、スカーレット。真一郎なら、きっとなんとかできる」
「そうかしら?」
「真一郎は、マリエと永一郎の子供だからね。あの二人みたいな強い心が、きっと真一郎の中にもあると思うんだ」
「親父と母さんが? そんな感じはしないけどな……」
「僕はそう思うよ。お互いの気持ちだけで、吸血鬼と人間の壁を越えて結ばれたんだから。その強さはすごいよ……うらやましい」
ジェムは魔法陣を描く手を止め、つぶやいた。
「そうか、そうだよな。俺はもっと自信持って生きてていいんだよな」
「うん、もちろん」
ジェムが笑ってうなずくのを見て、真一郎はふと気づく。もしかしたら自分は、誰かがこう言ってくれるのを待っていたのかもしれない。胸の中にすっと入ってくる、穏やかな気持ち。何か、とても大切なものを受け取ったような気がした。
「さあ、行こうか」
ジェムが二人を魔法陣に招き入れ、呪文を唱える。
まぶしい光が周囲を包み込み、それが消えると、三人は公園に立っていた。
真一郎にとっては、見慣れた公園だ。千秋の家に住んでいたときにはよく通りがかり、家を追い出された夜には、ここで眠った。数日ぶりに来た場所なのに、とても懐かしい気がした。
「ありがとうな。ジェム、スカーレット」
自然と、真一郎は言葉を発していた。
「お礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう。君に会えたおかげで、僕はやっとマリエのことと向き合えた。本当にありがとう」
「ああ、俺もいい機会をもらえたよ。母さんのこともわかったし、親父ともやっと話ができた。これもジェムのおかげだな」
別れの時が来たのだと、真一郎は今やっと理解した。
こうして話していると、もっといろいろなことを話したくなる。しかし、空は徐々に明るくなり、夜明けの時間はもうすぐだ。もう、あまり時間がない。わきあがる深い感慨に、真一郎は胸を押される気がした。
「スカーレットも、いろいろありがとうな。カップケーキとかパンケーキとか、腹減ってたから、本当に助かった。うまかったよ」
スカーレットは少しためらいがちに、真一郎を見ている。
「そ、そう? どういたしまして。あのね、真一郎。私からも、お礼を言うわ。ありがとう……」
「ん? 俺がお前に何かしたか?」
「えっと、夜、永一郎さんと一緒のときに話してて……励ましてくれて、うれしかったのよ、私……」
「ああ、あれか……。俺、変なこと言ったけど、まあ、……役に立ったなら、良かった」
スカーレットも真一郎もなぜか照れていて、言いにくそうに話している。ジェムは不思議そうに二人の顔を見ていた。
「と、とにかく」
真一郎が話を仕切り直す。
「二人とも、本当にありがとう。また街に来ることもあるんだろう? 機会があれば会いに来てくれよ」
「うん。真一郎もね、また会えたら、屋敷に遊びに来てよ」
「ああ。いつか、また」
「いつかじゃなくて、必ずよ。ね、ジェム」
「そうだね。必ず、また会おうよ」
「そうだな、俺も楽しみにしてる。それじゃ!」
真一郎は手を振って、二人と別れた。
次に会えるのは、いつになるかわからない。しかし、きっとまた会える。そんな気がした。だから、大丈夫。
強い気持ちを胸に、真一郎は歩き出す。千秋に、大切な想いを伝えるために。
*
はやる気持ちを抑えながら、一歩、また一歩と真一郎は階段を上っていた。アパートの二階、千秋の部屋はもうすぐだ。
アパートの階段を吹き抜ける微風に、金木犀の香りが混じっている。しかし、もうそれは残り香のように弱々しかった。金木犀の季節は、もう終わりなのだろう。代わりに、冬の始まりのような空気の冷たさを感じた。
真一郎は父の姿を思い出した。寡黙で表情の少ないあの父が、母との激しい恋に落ちたなんて、今まで想像もできなかった。しかしそれは事実で、だからこそ、今ここに真一郎がいる。
父のように、大切な人を激しく強く愛することができるだろうか、と真一郎は考えた。
いいや、父と同じである必要はないのだ。真一郎は真一郎なりの愛し方があればいい。父に比べれば、格好悪く見えてしまうかもしれないが。それでも、自分は自分の道を生きていけばいいのだと思った。
やがて真一郎は、千秋の部屋の前にたどりついた。インターホンに指を乗せて、少しためらった。まだ早朝なのだ。こんな早い時間に千秋を起こしてしまうのは悪いだろうか。しかし、迷ったのは一瞬だけだった。いつの間にか、指がボタンを押していた。ありふれた呼び出し音が鳴る。
しばらく、中からは何の反応もなかった。たった数秒のはずなのに、真一郎にはとても長く感じる。待ち続け、もう一度押そうかと思ったとき、ようやく扉が開いた。
「真……?」
ネグリジェ姿の千秋が、呆然とした目でこちらを見ていた。
「千秋。こんな早くに悪い……俺……」
「真っ!」
千秋は大声を上げると、真一郎を強く抱きしめた。
「真、ばか……今までどこ行ってたの……!」
千秋の声は震え、涙混じりだった。真一郎は息をのんだ。
「心配……したんだからね……!」
「あ……その、ごめん……」
泣き出した千秋を前にどうしたらいいかわからず、真一郎はただ謝った。千秋がこんなに泣いているところを見るのは、初めてだ。
彼女が落ち着くまで、真一郎は抱きしめられたまま、待った。彼女の体はあたたかい。こんなに小柄だっただろうかと、あらためて千秋を見ていた。
「……真。ごめん。本当にごめんね」
しばらくして落ち着いたのか、千秋は真一郎から離れ、涙をぬぐいながら切り出した。
「すごく自分勝手なのはわかってるけど……あたし、真にもう会えないって気づいたら寂しくて。やっぱり真と一緒にいたいって思ったんだ……。
また、あたしと一緒にいてくれるかな……?」
いつもの彼女から想像もつかないほど、弱々しい声だった。真一郎はすぐにうなずきたくなるのを抑えて、言葉を探した。
「俺……千秋に言いたいことがあるんだ」
「え……何……?」
「この間は、ごめん。俺も謝りたかったんだ。なんか俺、いろいろわかってなかったと思う……お前が誕生日楽しみにしてたこととか、いろいろ……」
「な、なによ、そんなの、もういいの! 私が勝手に怒っちゃっただけ。真は全然悪くないから……!」
泣いたせいか、千秋の頬は真っ赤だった。大げさに首を振って、真一郎の言葉を否定する。
「俺、追い出された後、実家に戻ってたんだ。そしたら、親父に叱られた。言いたいことがあるなら、ちゃんと伝えないとだめだって。世の中何があるかわからないから、二度と会えなくなって後悔する前に、ってさ」
千秋は一瞬不思議そうな顔をして、真一郎の言葉を待った。
「千秋。俺は、お前のことが好きだ。愛してる」
「え……、あ……っ、……」
「……はっきり言ったことなかったけど、本当はずっと思ってた。でも、やっぱり、ちゃんと言わないとだめだよな。だから……今日、もし千秋とやり直せなくても、これだけは言うつもりで来たんだ」
千秋はその言葉を聞きながら、落ち着きなく真一郎を見たり、うつむいたりしていた。
「……ば、ばか! きゅ、急にそんなこと言われたら、恥ずかしいじゃない……」
「な、なんだよその言い方! 俺だって、言うの恥ずかしいんだぞ!」
「じゃ、じゃあ言わなきゃいいでしょ! そ、そんな、こと、言われたら……も、もう! わかるでしょ!?」
二人とも動揺して、ケンカのような言葉ばかりが口から出る。もちろんケンカがしたいわけではないのだが、ついこんな調子になってしまう。
「わ、わかってるよ……でも、どうしても言いたかったんだ。お前は、俺が、初めて好きになった相手だから」
「っっ!」
千秋は顔を真っ赤にして、やたらと右を向いたり左を向いたりして、落ち着きがない。
「もう……っ、私が『つき合って』って言ったときには、『うん』としか言わなかったくせに! もっと、こう……早く言ってよ!」
「わ、悪い……あのときはよくわからなかったんだ。好きとかそういうの……」
「じゃあ、今はわかるの?」
「まあ、一応、お前のこと、好きだし……」
ここにきて『一応』などと言ってしまう自分が情けない。しかし改めて千秋に聞き返されると、やはり恥ずかしかった。真一郎も落ち着きなく視線をさまよわせてしまう。
「だったら、わかるでしょ。今私がしてほしいこと」
千秋が真一郎の袖をつかむ。自然と、二人の目が合った。
千秋の目が、まっすぐに真一郎を見ている。
「あ、ああ……」
「じゃあ、早く」
「わかったよ……」
今ここでするのか、という言葉をのみこんで、真一郎は千秋に腕を伸ばした。
二人ともそうしたいのだから、しょうがない。
真一郎は千秋の腰に手を回し、強く抱き寄せた。彼女の目が真一郎を見上げる。ふたりはためらわずに、唇を重ねた。
一度触れては離れ、すぐにまた重なり、
強く抱き合ったまま、何度も繰り返し口付ける。
離れたくない。
離したくない。
理屈ではなく、ただ単純に、ごく自然に、真一郎は思った。
千秋も、そう思ってくれるだろうか。
ふと彼女の顔を見る。
目が合って、彼女が照れながら笑った。
あたしも、と言う代わりのように、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめられて。
また唇が重ねられる。
「真……そろそろ、中に入ろうよ」
「ん……そうだな」
「ねえ、わかってるでしょ」
「わかってる」
「ずっと、一緒にいてね」
「ああ」
太陽が東の空をまぶしく照らしている。
いつしか金木犀の香りは、風の中から消えていた。
次の季節が、始まったのだ。
*
「あ、あれが、人間どうしのキスなのね……」
スカーレットは頬を赤らめてつぶやいた。
二人は、屋敷の玄関に戻ってきていたが、ついさっきまで、真一郎たちの様子を見ていたのだ。
「う、うん……そうだね……」
ジェムは膝をついて魔法陣のあとを消しながら、やはり赤くなってつぶやいた。
真一郎と公園で別れたものの、心配した二人はこっそり真一郎のあとをつけた。そして、近くの茂みに隠れて様子をうかがっていたのだ。結局、二人がキスをしている間に日が昇ってきてしまったため、あわてて屋敷に戻ってきたのだが。
ジェムとスカーレットの脳裏には、あの二人が抱き合う姿が焼き付いている。まだ少年と少女である二人は、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
「真一郎ったら、振られたって言ったくせに、あんな……だ、大胆なことして……」
「……お、大人、だからね、真一郎は……」
「そ、そうね……大人は、キスとかするのよね……」
ふたりともどぎまぎして、まともな会話になっていない。それでも思いついたことを口に出さずにはいられなかった。
でないと、緊張のあまり、心臓がどうかしてしまいそうだ。
この広い屋敷の中で、今、ジェムとスカーレットは二人きりなのだから。
「ね、ねえ……」
「ど、どうしたの、ジェム?」
「……スカーレットも、キスしたいとか、思うの?」
「え……あっ」
スカーレットは魔法陣の近くに座り、黙り込んでしまった。
「ご、ごめん……」
「い、いいのよ……。でも、いつかは、してみたいわよね……」
「あ……」
スカーレットの言葉に、今度はジェムが黙り込む。スカーレットはあわてて手を振った。
「ご、ごめんね、変なこと言って。ジェムは、あせらなくていいのよ。ゆっくり、考えてくれればいいから……」
そう言ってから、スカーレットは気づいた。これでは、ジェムにいつかキスしてほしいと言っているようなものだ。
「あ、あのね、ええっと……」
言い訳しようとして、けれども、言葉が出てこなかった。
ジェムはとっくに魔法陣を消し終えて、その場にしゃがみこんだままうつむいている。スカーレットも何も言えずにうつむいた。
急に辺りが静まり返る。
これは、二人がよく知る静寂。
古いものばかりのこの屋敷に流れる、重くゆっくりとした時間。
慣れているはずなのに、今はそれがとてももどかしい。
先に口を開いたのはジェムだった。
「スカーレット……」
スカーレットがあわてて顔を上げる。彼女の方を見ることができないまま、ジェムはつぶやいた。
「今、僕がキスしたいって言ったら、どうする?」
「え……だって、マリエさんのことは……」
スカーレットがそばにやってきて、ジェムの様子をうかがう。
つい数時間前まで、ジェムは泣いていた。マリエを失った悲しみが、大きすぎたのだろう。そして、今でもマリエを想う気持ちと、気づいてしまったスカーレットへの想いに挟まれて、苦しんでいた。
スカーレットは、ジェムを苦しませたくない。だから、ジェムの悲しみが落ち着くときまで、待とうと思っていた。
しかし、
今、ジェムは。
「さっき、真一郎たちを見ていたら……思ったんだ。スカーレットとキスしたい、って」
平静を装って話しているが、ジェムの鼓動は落ち着きなく脈打って、本当は苦しいほどだ。スカーレットの顔を見ながら、こんな言葉を発している自分が信じられない。
「ジェム……本当にいいの……?」
心配そうなスカーレットに、彼はうなずいた。
「ねえ、スカーレット」
意を決して、ジェムはスカーレットの手を取った。いつもジェムのそばにいてくれた大切なひとの、手。
やさしく指をからめ、その手をつないだ。
「大好き」
スカーレットの目を、まっすぐに見て。
ジェムは告げる。
嘘偽りのない想いを。
「ジェム……」
スカーレットの目に、少しだけ涙がにじんだ。
「君のことを想ったら、いてもたってもいられなくなったんだ。君にそばにいてほしい。理屈も、理由も、いらない。ただそばにいてほしいんだ」
ジェムはずっと、マリエのことが好きだった。けれども、真一郎と千秋を見たとき、頭に浮かんだのはスカーレットの姿だった。マリエを想うときの気持ちと違う、強くつき動かされるような気持ちが胸にわきあがる。
一緒にいたい。
一緒にいてほしい。
ただそれだけで、ちゃんとした理由なんて、わからない。
でも、それだけで十分だと思った。
「ありがとう、ジェム。すごく……うれしい。私もジェムのこと、ずっと好きだったから」
スカーレットがつないだ手に力を込める。
「私、絶対ジェムと離れないわ。もう決めたの。これからは、ずっと一緒よ」
「ありがとう……」
スカーレットの言葉に、ジェムはまた涙がこぼれそうになる。
「だから……キス……しても、いいのよ……」
恥ずかしそうに小声で言うスカーレット。自分が言ったことを思い出し、ジェムはまた胸がどきどきしてきた。
「う、うん……」
二人は手をつないだまま膝立ちになって、互いの目を見つめた。
心臓の音がとてもうるさいのに、なぜか心が穏やかになるような、不思議な気持ちだった。
真一郎と千秋がやっていたのを真似するように、ジェムはスカーレットの腰に手を回した。二人の体が密着する。どちらともなく体がびくりとふるえた。
こうして目を合わせると、二人の視線は同じ高さだった。少し前は、ジェムのほうが低かっただろう。そして、いつかジェムのほうが高くなる。その日は、そう遠くないかもしれない。
「スカーレット……いい?」
「ええ……」
ひそやかな声。
ジェムは最後の確認をすると、そっと彼女の頬に触れて。
ふたりは、生まれて初めて、その唇を重ねた。
言葉にできない気持ちで、胸がいっぱいになる。
「ん……っ」
「ジェム……」
すぐに唇は離れたが、名残惜しそうなスカーレットの視線に、ジェムは引き寄せられる。
二度、三度と二人は口づけを重ねた。
そのたびに、胸の奥から知らないはずの気持ちがあふれ出す。
体中がとても熱いのに、胸の中があたたかくて心地良いような、不思議な気分だった。
マリエも、こんな気持ちだったのだろうか。
永一郎と出会って。恋に落ちて。すべてを失ってでも、激しく愛し合って。
愛する人のためなら、すべてを捨ててもかまわない。
その気持ちが、今のジェムには少しだけわかる気がした。
(マリエ……いいかな。僕は、スカーレットと一緒に、幸せになってもいいかな……)
マリエの笑顔が、はっきりと頭に浮かぶ。
いいのよ、と彼女がうなずいてくれた気がした。
「スカーレット……」
高まる気持ちを抑えられなくて、ジェムはスカーレットを抱きしめた。スカーレットを押し倒すように、二人は抱き合ったまま床の上で横になる。
「ジェム……」
スカーレットも腕を伸ばして、ジェムを抱きしめた。
二人とも、それ以上、言葉が出てこなかった。
言葉はいらないのかもしれない。
もう一度、二人の唇が重なり、
深い深い口づけを交わした。
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