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こいつの中身はどういう人間なんだろうな、と考えつつチャットを進める。ミライという人物は、敬語を喋るのはあまり得意ではない印象だが――なんだか妙に憎めないところもあるのだ。可愛げがある、というか、剽軽である、というか。喋り方は軽いが、けして他人を見下したりか論じたりしている印象ではない。むしろ、人間という存在が好きで好きでたまらない印象も受けるほどである。
――なんとなく……あれだな、シッポをガン振りしてるゴールデンレトリーバーみたいなやつ。うん、ミライってそんなかんじ。
ゴールデンがシッポをぶんぶんしながらキーボードにかじりついているところを想像してしまい、ついつい吹き出してしまう研矢である。思わず声が出てしまったが、幸いここは一人暮らしのワンルームだ。誰にも見られてなくて良かったな、と思う。
ふと時計を見れば、既に時間は夜中の一時を回っていた。さすがにそろそろ寝なければ明日の仕事に響きそうだ。まだまだ話を聞きたそうなミライに申し訳ないと思いつつ、チャットを終わらせる方向に持っていくことにする。
オコジョ:ごめん、一時過ぎちゃった。悪いけど、明日も仕事あるから今日はこのへんで。
ミライ:あ、もうこんな時間か。ごめんごめん、時間すっかり忘れちまってたわ。夜遅くまでレクチャーありがとな。
オコジョ:いいってことよ。また明日もよろしく十時くらいにログインしてるから。ていうか、お前は仕事大丈夫なの?
ミライ:りょ。あれ、言わなかったっけ。俺いわゆる専業主夫ってやつなんだわー。時間はいっぱいあるんだよね。小さな子供がいるとかもないし。アルバイトしよっかなーとは思ってるとこだけど。
オコジョ:あ、そうなのか。なら大丈夫なのかな。じゃあ明日も十時に、よろしくな。
ミライ:いえーい、よろしくー!
さて、ログアウトしよう。そう思って研矢が村の退室ボタンを押そうとした、まさにその時だった。
「……あれ?」
不意に、液晶画面がぐにゃりと歪んだ――ように見えたのである。目が疲れたのだろうか。流石に三時間もぶっつづけてチャットはやりすぎてしまったかもしれない――目をごしごしと擦って再び画面を見た研矢は。
「!?」
驚きのあまり、椅子から転げ落ちていた。
さっきまで表示されていたのは、おどろおどろしい暗い森の背景に、真っ黒な枠で表示されたチャットの画面である。人狼ナイトターミナルは、チャット形式で人狼ゲームをシンプルに進行していく。誰が何をカミングアウトした、などの固定ボタンはないので自分達でメモを取るしかないが、その分サーバーそのものが軽くさくさく動く上、操作方法を覚えるのが難しくないという強みがあるのだ。他にも人狼ゲームのできるサーバーは多かれど、人狼ナイトターミナルを研矢が選んでいる理由はそのあたりにあったりするのである。
その、見慣れたチャット画面が、だ。目をこすった一瞬のうちに早変わりしてしまっていたのだ。
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