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画面いっぱいに表示されていたのは、真っ黒な毛に覆われ、金色の瞳を爛々と輝かせた――一匹の狼の顔の、ドアップだったのだ。
「な、な、なんだこれ!?なんだこれ!?」
尻餅をついたまま後ずさる研矢。この時思っていたのは精々、おかしなリンクでも踏んでしまったのか、とか。ウイルス感染してパソコンがおかしくなってしまったのか、等であった。仕事上、パソコンが動かなくなってしまうのは死活問題である。十五万円のノートなのだ、こんなところで壊れてしまったらとんでもない話だ、一体どうしてくれよう――つまりはそういう、ある意味非常に現実的な恐怖だったのだ。
しかし、その考えは間違っていた。
目の前に突如として現れた“狼”は――そんな生易しい存在などではなかったのである。
『……“タシロケンヤ”』
狼が、喋りだしたのだ。罅割れ、機械で加工したような低い声で――研矢の、フルネームを。
『人狼ゲームの戦績、千三百五十戦……勝率、七割。素晴らしい戦績、素晴らしい頭脳デス。是非とも、我らが理想のために活用させてもらいタイ……』
「な、な……な?」
一体何の話だ。頭をぐるぐるさせて考えるも、当然答えなど出よう筈がない。そもそも、どうしてこいつは自分の本名を知っているのだろう。チャットにはハンドルネームしか入力したことはない。どこか別のルートで、本名などの個人情報が漏れたということだろうか。
というか、頭脳を活用って、それは一体どういう意味なのだろう。全く訳がわからない。
「な、何なんだよお前!活用って、俺に何させようってんだよ!!」
絶叫する研矢に、狼はざらざらするような声で嘲笑した。素晴らしいと褒めたくせに、その笑い声は――人を見下しきった、格下の存在とナメきっているような声だった。
『何でもいいでショウ?知る必要もないですシ……貴方に、拒否権もありまセン。貰いますヨ、貴方の意識ヲ……魂ヲ!』
狼が吠えた――その瞬間だった。突如パソコンの画面がバチバチと明滅し――次の刹那、研矢の視界は真っ白に染まっていたのである。
悲鳴を上げることもできなければ、抵抗する隙もなかった。狼が表示された瞬間に部屋の外に逃げていれば――なんてことを、考えてみたところで完全に後の祭りである。
全身から力が抜け、己の身体が膝から崩れ落ちるのを感じながら。そこで、研矢の意識はブラックアウトしていったのだった。
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