<2・Mirai>

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――まあだからこそ、俺は基本外に出ないで、この部屋でまったり過ごしてるわけなんですけど。  ミライは苦笑気味に思う。そもそも本当のことなど言って一体誰が信じるだろうか――ミライが、目の前のまだ高校生相当の少年である柳優介(やなぎゆうすけ)に作られたアンドロイド――つまり機械である、だなんて。  心を持ったロボットを作ること。それが、優介の長年の夢であり希望であった。  数学や物理、コンピューター関連の知識に関してのみ異様なほどの才能を発揮した彼は、幼い頃から人々の中に溶け込むことができず、孤立しがちな存在であったのだという。極めて劣ったものも叩かれるが、優れすぎている者も当然のように異端児として叩かれて排除されてしまう。悲しいかな、それが今のこの世の中の現実ではあった。特にこの国では、人と足並みを揃えることが美徳とされているから尚更である。  その彼が両親から独立して一人暮らしを始め、在宅でシステムエンジニアの仕事をしながら研究し作り上げたのが――今此処にいる自分、心を持ったアンドロイド、ミライという存在なのだった。  高い知性に、人と同じように思考し感情を巡らすことのできるAIを搭載した、人間とほぼほぼ変わらぬ見た目のロボット。自分でいうのもアレだが、なんともまあよく出来たものだと感心してしまう。服を脱ぎでもしなければ、外を歩いても誰も自分がロボットだなんて疑うこともしないに違いない。  ただ、当然ながら“心を持ったロボット”なんてものは――今のご時世からすると良くいえば世紀の発見、悪く言えば危険な研究であるのも間違いないのである。  優介はあくまで、自分の長年の夢をひっそりと叶えたかっただけに過ぎない。それを誰かに発表して、認めて欲しいなんて願望も持ち合わせてはいない。もしミライの存在が明るみに出れば、どんなトラブルが巻き起こるのか分かったものではないだろう。  ゆえに、ミライは基本的にこのマンションの部屋から出るということはしない。実質、研究やら仕事やらで普段の生活をおろそかにしがちな優介のお世話ロボットのような立ち位置と言っても過言ではなかった。なんといっても彼ときたら、集中すると食事も睡眠も風呂も平気で忘れてしまうのである。ミライが完成して目覚めてからは、そういう不摂生は極力避けさせるようにはしているが――本当に、それまでは一体どうやって過ごしていたのか、甚だ疑問だ。  器用でないはずもなく、やろうと思えば料理も掃除も完璧にできるはずの彼なのに、己のためにその努力をしようという気がまるで起きないのが優介だ。とにかく今後も、彼が無茶や無謀な真似をしようとしたら全力で自分がそれを止めないと、と思っているミライである。
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