<2・Mirai>

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――まあ、普通に考えれば、ロボットの俺よりも優介の方が先に死ぬはずだしなあ。  なんだか急に、美味しいはずのトーストがひどく味気ないものに感じてしまった。ああ、せっかくアンドロイドでも擬似的にごはんを味わえる機能を彼がつけてくれたのに。そしてこれは基本考えない方がいいことだとわかっているというのに。無駄に人間臭くなってしまった思考は、簡単にミライに最善手というものを取らせてはくれないのである。 「ミライ?どうした?」  考え込んだミライを心配して、優介が声をかけてきた。ミライは慌てて首を振って笑顔を見せる。そうだ、今はそんなことを考えている場合ではなかった。脱線しかかった思考を、元のルートに修正しなければ。 「あ、ごめんごめん、ちょっと別件考えてたわ。……まあ、とにかくね。順を追って説明するとさ、俺ってば暇だから最近夜を中心によくネットに繋いでチャットしてるわけですよ。特に人狼ゲームにハマっててさ、セオリー頑張って覚えてるところなわけね」 「熱暴走しないように、夜はきちんと電源落とすかスリープしろと言ったはずだが?」 「ちゃんと最低三時間はスリープしてます!大丈夫デッス!……と、それは置いておいて。で、最近よく俺に親切に人狼ゲーム教えてくれる人がいてさ。その人が、ハンドルネーム“オコジョ”っていうんだけどね。人狼ナイトターミナルってサーバーでいっつも人狼やってるそこそこのベテランで、昨日もその人にセオリーとか戦略とか教えてもらってたわけなのよ。で、そろそろ一時も回ったし、これでお開きにしましょーって言って解散しようとした……んだけどさ」  そう、話を切り上げるその時までは、特に何の異常も見当たらなかった。 『オコジョ:ごめん、一時過ぎちゃった。悪いけど、明日も仕事あるから今日はこのへんで。  ミライ:あ、もうこんな時間か。ごめんごめん、時間すっかり忘れちまってたわ。夜遅くまでレクチャーありがとな。 オコジョ:いいってことよ。また明日もよろしく十時くらいにログインしてるから。ていうか、お前は仕事大丈夫なの?  ミライ:りょ。あれ、言わなかったっけ。俺いわゆる専業主夫ってやつなんだわー。時間はいっぱいあるんだよね 。小さな子供がいるとかもないし。アルバイトしよっかなーとは思ってるとこだけど。 オコジョ:あ、そうなのか。なら大丈夫なのかな。じゃあ明日も十時に、よろしくな。  ミライ:いえーい、よろしくー!』  だが、そうやってミライがいつも通り軽い挨拶をした直後――奇妙なことが起きたのである。 「人狼ゲーム、確か優介もちょっとはやったことあったよね?村に人に化ける狼が紛れ込んで、村人を毎晩一人ずつ食い殺していく……っていう。で、村人に化けた狼を抹殺するため、毎日話し合って村人を一人ずつ処刑していくことにしましたっていう、アレね」 「ああ、知っている。だからネットで人狼ゲームをやる時は、専用のチャットルームを作るんだったよな。で、それを“村を立てる”と言うことが多いんだったか」 「そうそ。で、村を立てた人がルームマスターで、それこそマナーの悪い人をキックして部屋から追い出すのもその人の仕事だし、ゲームを始めるスタートボタンを押すのもその人の役目ってわけだ。で、ルームマスターが部屋から退出すると、部屋そのものが消滅して部屋に残っていたメンバーも強制ログアウトになるわけね」
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