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骨の魚
街の明かりに魅せられた波間は
微かな光を放ちながら弛まなく揺れていて
夜の海だけが仄暗く
白い骨の魚だけが
余りに高い公団の隙間から吹く鋭い風に
骨の間を突き抜けられるのだった
ケミカル・ファイバーの植物とか
合成樹脂のクラゲなんかのように
プカプカと浮いているわけではないが
喋ることも話すことすらなく
街を眺めているだけだった
でも夜が深い時間には
カーテンを閉める音から
ベンチに座る恋人達の
忙しない会話まで耳をすませていた
あるとき骨の魚は
路地を歩くひとりの美しい人の後を追いかけた
そして見えなくなってしまった背を見て
ぽっかり空いた目の中から
涙と言うべきものだろうか
目一杯溢しながら
蛾が群がる外燈に照らされたりして
どこか寂しげに夜空の星を見上げるのだった
やがて朝を迎えると骨の魚は
誰にも目を当てられることのない
海の深くへと潜る
また寂しい朝がやって来た
トラックの重たい音がこちらに近づいてくる
人間が汗を流しながら
ビニルの袋を車の後部のある場所へ
放り投げたりして
でも魚の骨である私はどこへ行くのだろうか
あの骨の魚のように
泳ぐ真似をしてみたりするのだが
透明なビニルに入っている私は
動くこともままならないまま
どこか遠くへと
いってしまうのだろう
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