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母の手料理
一年ぶりの自分の部屋は綺麗に保たれており、定期的にお母さんが掃除してくれていたのがわかった。
家を出るまで使っていた犬の描かれた茶色いカーペットは処分されたようで、フローリングが露わになっている。
「棚もクローゼットも、そのままだ」
漫画や小説が入っている大きな本棚も、壁面収納のクローゼットも、中は全部家を出た時と何一つ変わっていない。
掃除をして綺麗に整頓されたままだ。
懐かしい気持ちが押し寄せてくる。
まるでここに居ていいんだと言われているようだ。
都合のいい解釈だろうけれど、全く変わらないそのままの状態の部屋が私を嬉しい気持ちにさせた。
半ば強引に、お父さんの了承も得ずに家を出た私。
家に置いていった私物は全部捨てられて物置にでもされているんじゃないかと勝手に考えていた。
私は本当に心の狭い女だ。
どうしても親孝行な娘になれない。
自分に呆れてため息を吐いてクローゼットの中身を覗いていると、ふと懐かしいものを見つけて手を伸ばす。
それは過去に貰った手紙を入れているレターケースだった。
大学生になれば手紙を貰う機会なんてなかったけれど、小学生から高校生の間ではよく貰っていたと思う。
久しぶりに覗く中身。
レターケースいっぱいに手紙が束になって入っていた。
「すごい…」
こんなにも手紙を持っている自分に驚いた。
小学生の時はわざわざ手紙に書いて友達と秘密ごとを共有していた。
中学や高校では部活の先輩や後輩から引退の際に手紙を貰い、号泣したのを覚えている。
その時に私も泣きながら渡したはずだ。
なんとなく手紙を見返していると、シンプルな封筒を見つけた。
印象に残っているその封筒を目の前に持ってくる。
封筒の表面には【松本浩・裕子】と書かれていた。
お母さんの字だ。
お父さんの名前も書かれていたが、それは確かにお母さんの書く綺麗な字であった。
迷わず中身を見れば、花柄の便箋が一枚入っていた。
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