ラポール形成

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「あんまり想像つかないけど、仕事とは真摯に向き合うんじゃないかなぁって感じはするよ」 「仕事は仕事としてやります。でも、法律っていくつもあって、弁護士によって得意、不得意があるんです。だから、離婚の案件を得意としてる弁護士にたまたま当たれば上手いこといきますけど、そうじゃなきゃまず成功しないですよ」 「そうなの!?」 「そうです。ドラマみたいに毎回勝てるわけないじゃないですか。負け戦は、時間と金の無駄なのでやりません」 「そっかぁ……。じゃあ、律くんのいる事務所は離婚の案件は受け付けないの?」 「いえ、離婚問題を1番得意とする女性弁護士がいるので、全てそちらに流します。うちの先生も、苦手な案件で躓くよりも、得意な案件をこなしていく方針なので」 「それはそれで大変そうだね……。じゃあ、その人は離婚ばっかり? 律くんは?」 「俺は不動産、詐欺、行政なら。事故も好きじゃないけど、まあ受けます。あ、刑事は面白いんで全般引き受けます」  そう言った彼は、心なしか嬉しそうだった。テレビで弁護士が民事より刑事の方が面白いと言っているのもみたことあるしな。 「じゃあ、色んなことを担当するんだね」 「そうですね。都会の弁護士事務所なんかは取り扱いが分かれていて、最初から受け付けていないところもありますよ」 「え? 弁護士事務所に行っても取り合ってくれないの?」 「はい。でも、地方だと選り好みしていても仕事はないので全般受け付けます。だから、依頼する方も弁護士なら誰でも大丈夫なんて安易な考えでいると大した利益にはならないですよ。だからといってクライアントは相場がわからないからそれで納得するしかないですし」 「えー……ほとんど詐欺……」 「はい、気を付けて下さいね。国家資格を取れるのと、それを用いて仕事ができるのは別の話ですから」  妙に納得させられてしまう。  弁護士資格なんて難関だし、凄い資格だから弁護士さんっていうだけで先生! って感じがするけれど、実際弁護士の律くんからそんなことを聞かされると怖いなぁと思ってしまう。 「何かあった場合はどうしたらいいのかなぁ?」 「もちろん、知り合いに頼むのが1番です。ツテでも紹介でもいいから、誠実に向き合ってくれる弁護士を見つけないと依頼料だけ払って何も解決しないなんてこともありますから」 「知らなかったなぁ……」 「弁護士も慈善活動じゃないですからね。真の目的は金稼ぎなので、いかに効率よく稼ぐかも考えてますよ」 「現実的だなぁ……」  確かに裁判になれば双方に弁護士がついているわけだから、どちらかが勝ってどちらかが負けることになる。  負けた分赤字になるリスクを考えたら、勝てそうな案件の方にいきたいのも頷けるし、引き際を考えて利益のある内に手を引く考えも納得できる。  ドラマのようにはいかないなぁなんて現実を思い知らされるのだった。
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