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どれ程の時間、彼は私の頭を撫でながら抱き締めていてくれただろうか。
黙って泣き続ける私に、彼も黙って傍にいてくれた。それだけで十分だった。
千代さんの存在が私にとってどれだけ大切だったか。そんな大切な人を失ってどれ程辛かったか。
千代さんを知らないあまねくんが共感できるはずがないのに、それでも必死に私の心情に寄り添おうとしてくれる。こんなに愛情を注いでくれる人はそういない。
「……もう、大丈夫」
「ん」
「……あまねくんは、ずっと一緒にいて」
「いるよ。俺が一緒にいたいから」
「……いなくならないでね」
「ならないよ。まどかさん、泣き虫だからね。1人にさせたら俺が心配」
彼の言葉は、暖かくて優しい。私のためというよりも、自分がと言ってくれる。
その分彼からの愛情も伝わってきて、この先もずっと彼といたいと願う。
こんな時だからなのか、毎日彼と一緒にいたいと思った私は、ようやく彼が結婚したいと言ってくれた気持ちがわかったような気がした。
もしも彼が、今の私が彼を必要としているのと同じくらい私を必要としてくれていたのなら、彼にとっての結婚は、今まで私が考えていたような簡単なものじゃない。
生活を共にして、人生を共にして、いつか子供ができて、老後を過ごす。
そんな箇条書きで済むような簡単な問題じゃない。
精神的に全てを委ねられる、そんな目に見えない繋がりを欲しているのなら、紙1枚で済ませるにはとても簡易的で薄っぺらいもののように思えた。
この時、初めて彼との結婚と心から向き合う決心ができた気がした。
妹さんに認めてもらえるように……そんな決意をしたけれど、それさえも後回しでいいかと思える程に、とにかく彼と過ごす時間を1秒でも多く私のものにしてしまいたかった。
きっと、これが独占欲。
今まで知らなかった感情。私は、この人を誰にも渡したくない。甘やかしてくれるのも、優しい言葉をくれるのも、時間を割いてくれるのも、全部私だけのためにしてくれたらいいのに。
「……どうしたら、あまねくんは私だけのものになる?」
顔を上げて彼の目を見つめる。綺麗な眼でこちらを見ると、きょとんとした顔で「変なこと言うね。俺は、とっくにまどかさんだけなのに。思い通りにならないのはまどかさんの方でしょ」なんて笑われてしまう。
そうじゃないのに。こんなに禍々しい、汚い感情は、今まで知らなかったのに。
全部、全部独り占めできたらいいのに、そんなことを考えていることを知られたら、彼は重たくなっちゃうかな……。
「……今日、帰りたくない」
顔を伏せて、彼の胸に頬を寄せる。
「珍しい……まどかさんからそんなこと言うなんて。いいよ、いつでも泊まってって」
「うん……。毎日、一緒にいたい」
「……じゃあ、俺と一緒だね」
少し間が空いたものだから、私に合わせてくれたんじゃないかと不安になって顔を上げれば「本当だよ。そんな顔しないの」そう言って笑いながら私の頭にキスをくれた。
「言っとくけど、俺の方がまどかさんのこと好きだからね」
その言葉に、菅沼さんとの仲を勘違いして泣きじゃくるあまねくんの姿を思い出す。
逆の立場なら私だって大泣きする。私は、こんなに醜い程、彼のことしか見えていないのに。
彼が泣く程私のことを好きでいてくれたのはわかったけれど、私の独占欲はどの程度受け入れてもらえるのだろうか。
やり場のない、大きくなりすぎた気持ちをどうしたらいいのか、私にはわからなかった。
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