愛情

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「さすがに今日は泣き疲れちゃったかなって思ったけど、洗って欲しかった?」  私の視線に気付いた彼は、浴槽の縁に両腕を組んで置き、覗き込むようにしてこちらをみる。  お洒落な黒い鏡面の浴槽が彼ととてもマッチしていて、濡れた髪と上気した肉体が色気を放つ。  やっぱり、あまねくんって……綺麗でかっこいい……。今更だけれど、いつ見ても見る度にそう思う。 「あ、洗うのは大丈夫……。でも……待ってて?」 「今日ヤバいな……そんなに甘えん坊だととことん甘えさせたくなる」 「甘えさせてくれるの?」 「いいよ」 「……私だけにしてね」  つい溢れ出してしまった独占欲にハッとして俯く。  卑しいと思われたらどうしよう、そう思っていたけれど「当然でしょ。まとがさんが甘えるのも俺だけにして」そう言ってもらえて、胸が熱くなる。  彼も同じくらい私のことを好きでいてくれたらいいのに……。  吸い寄せられるようにして、彼の唇にキスをする。触れるだけのキスをしたけれど、なんとなく名残惜しくて、彼の唇をほんの少しだけペロッと舐めてみた。  柔らかくて濡れた感触がした。 「……」  目を見開いたまま、硬直している彼。  先程の意地悪そうな表情は微塵もなくて、愛らしいその表情に愛しさが込み上げる。  彼の頬に触れるだけのキスをして、私は体を洗い始めた。  隣で彼がゆっくりと姿勢を戻して、顔面を湯の中に浸け始めた。  気配だけで感じ取っていた私は、肉眼でそれを確認し、思わず笑ってしまった。  20秒程して、ざばっと彼が顔を上げ「……今の何?」と呟いた。  だいぶタイムラグがあったようだけれど、彼が自分の世界に浸っている間に私は体を洗ってしまおうともこもこになった泡で身体中を擦った。  シャワーで泡を流すと、一昨日と同じように彼と同じ方向を向いて彼の足の間に座る。  背中を彼の胸板に預けて、左右にある彼の腕を両肩からかけるようにして前に持ってくる。私の体の前で、その両腕を握った。 「そこまで、自分でしなくても」  彼は、少し体を起こしてクスクスと笑っている。彼と密着していることが嬉しくて、その腕をぎゅっと抱き締める。 「……ねぇ、おっぱいあたってる」 「んー……」  彼の腕があたっているのは重々承知だけれど、それよりもどうしたらこのもやもやした独占欲が晴れるのかが気になって仕方がない。  一昨日のように、彼でいっぱいにされたら満たされるだろうか。いや……それだけじゃ足りない気がした。  どうしたら心も体も全部私だけのものになるだろうか。答えの見えない疑問でいっぱいだ。  彼が喜んでくれて、嬉しそうな顔を見せてくれたら、少しだけ満足できるだろうか。彼はどんなことを望んでいるだろうか。考えてもわからなかった。 「考え事?」 「んー……」 「何考えてるの?」 「んー……」  ずっとあまねくんのことを考えているのだけれど、本人を目の前にして彼のことを考えているのもおかしな気がする。  抱き締めていた腕を解放して、体を斜めにし、顔を彼の方へ向ける。 「……キスして?」 「え……?」  彼の質問には答えず、キスをねだれば、彼はまた目を見開く。  そのまま彼が顔を落として、私にキスをくれた。
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