ラポール形成

5/44
前へ
/266ページ
次へ
「何だかごめんなさいね。こんな話、まどかちゃんにするようなことじゃないわね」  ダリアさんは照れ臭そうに笑って、紅茶を1口飲んだ。指先まで綺麗で、1つ1つの動作がとても優雅だ。  全身の筋肉が綺麗に見せることを心得ているかのように、流れるように自然だった。モデルとして培ってきた経験は、日常生活の動作にも現れるのだろう。  おばあちゃんの世話もあるからか、爪は短く切られているが、表面は光沢があってしっかりとケアされているのがわかる。 「そんなことないです。私も、いずれ母になる身としては、ダリアさんから色んな話が聞けて勉強になります」 「……そう? 奏はまだ子供だから、あんまり将来のこととか、家族のことなんかも話をしないの。まだ高校生の時に彼氏を連れてきたことがあったんだけど、少しヤンチャな雰囲気の子でね。根がいい子ならいいんだけどと思ったんだけど、ちょっとね……」  ダリアさんは、笑って誤魔化そうとしていたけれど、おそらくあまり常識のない子だったのだろうと想像した。 「だからね、お母さんあんまりあの子は好きになれないなって反対しちゃったの。奏はてっきり律や周みたいなタイプの男の子を選ぶと思っていたから……。それもあって、まどかちゃんのことが気に入らないのかな? 自分は反対されたのに、周の彼女はいいのかって……」 「でも、高校生の時の話ですよね? きっと社会人になって自分の力でお仕事をもらえるようになった奏さんは、昔とは考え方も変わっていると思いますよ。だから、ダリアさんが反対したからっていうわけではないと思います」 「そうだといいんだけど……どうしてかしらね。まどかちゃんには何でも喋っちゃう。周もきっとこうやってまどかちゃんとお話するのが楽しいのね」 「私もダリアさんとお話するの、楽しいです。おばあちゃんともたくさんお話できましたし。あまねくんは、私の話を聞いてくれる方なんですよ。聞き上手だから、たくさん話すのはいつも私の方なんです」  彼がいつも私の話を聞いてくれる場面を思い出し、自然と笑みが溢れた。落ち着いた雰囲気も、明るい雰囲気も、場面によって変えて、話しやすい環境を整えてくれる。 「まどかちゃんは、いつも周のこと褒めてくれるわね。私もいつもお義母さんと2人きりだから、あまり話し相手もいなくて寂しいの。だから、たくさん遊びに来てくれる?」 「また誘っていただけたら嬉しいです」 「本当? じゃあ、連絡先教えてくれる?」 「はい! 是非」  一気に距離が縮まった気がして嬉しかった。直接連絡を取り合えるまでもっと時間がかかると思っていたから。  おばあちゃんよりもダリアさんと話していることの方が多かった気がするが、ここにいる間は千代さんのことを忘れられた。とても楽しくて有意義な時間を過ごせた。  随分と話し込んでしまったようで、時間も見ずにいたのだけれど、玄関で音がしてはたと時間を気にする。 「あ、主人かな? 律かな?」  ダリアさんが顔を上げたことで、もう夕方なのだと驚いた。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8841人が本棚に入れています
本棚に追加