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暫くは、皆でリビングで過ごし、あまねくんとおばあちゃんと話に夢中になっている内に、おばあちゃんが座っていた椅子は律くんによって片付けられていた。
「ご飯できたよー。食べましょ 」
ダリアさんが声をかけてくれ、食事が開始となった。あまねくんの父親はまだ帰ってこない。
「お父さん、まだ帰ってこないの?」
あまねくんにこっそり耳打ちすると、何てことのないように「そうだね。遅くなることもしょっちゅうだよ。仕事によっては遅くまで事務所にこもってるんだ。律も、早い時と遅い時とあるし。今日は早かったみたいだね」と言った。
「うん。今日はね、律くんが色々弁護士さんの話をしてくれたよ」
「律が? へぇ……珍しい」
あまねくんは、箸をとめて律くんを見る。その視線に気付いた彼が「なに?」と表情を変えずに言った。
「律が他人と話するなんて珍しいなって思って」
「別に。おばあちゃんこそ珍しくここにいたから来てみただけだよ。仕事も早く終わったし」
「ふーん」
あまねくんは、口を尖らせ数回頷くと、また 食事を始めた。
「律も普段同世代の話し相手がいないから、たまにはいいでしょ? お母さんもね、すっかりまどかちゃんと話し込んじゃって。楽しかったわね」
ダリアさんは、嬉しそうに笑ってくれる。また笑顔が戻ってよかった。
あまねくんの父親が帰っていないことで、椅子が1つ足りなくても事なきを得ている。
「失礼な。俺にだって友達くらいいるよ」
律くんがそんなことを言うものだから、彼の友達とはどんな人だろうかと想像してみるが、どれも違う気がした。
「律がお友達と遊びに行くなんてあまり聞いたことないけど……」
「仕事帰りにそのまま会ったり、言っていかないだけ」
淡々と話す律くんと、首を傾げて律くんを見るダリアさん。その光景が何だかおかしくて笑えてしまった。
「あまねくんの家族、いい家族だね」
こっそりあまねくんにだけ聞こえるくらいの声で言う。
「そう見える? それなら嬉しい。まどかさん、今日迷惑かけたみたいでごめんね」
「ううん。全然迷惑だなんて思ってないよ。逆におばあちゃんが悲しい思いしちゃったみたいで、私もちょっと切ない」
「そっか……。いくら仕事で日常茶飯事だって言ってもプライベートでしかも、彼氏の家って中々ダメージ大きいと思うんだけどな」
「私は大丈夫だよ。ダリアさんも律くんもすごく謝ってくれて申し訳ないくらい。これくらいのことで気にしないで」
私にしてみれば、おばあちゃんの尿を踏んづけたことよりも、妹さんに罵声を浴びせられたことの方が衝撃的だった。
彼女には何があるんだろう。何となくおばあちゃんとの間に確執があるような気がして気になっているところだった。
食事を済ませ、暫くゆっくりさせていただき、今度こそは帰る支度をする。
ダリアさんは、「まどかちゃん、今日は本当にありがとう。また遊びに来てくれる?」と声をかけてくれた。
「はい! もちろんです」
「それじゃあ、また連絡するわね」
「待ってます」
自然に溢れた笑みでそう言うと、彼女も嬉しそうに微笑んでくれた。隣にいたあまねくんは、「連絡ってどういうこと?」と私の方を見る。
連絡先を交換したことを説明し、彼が驚いているよそで、ダリアさんとおばあちゃん、律くんに挨拶をした。
あまねくんが車まで送ってくれると言うので、少しだけ彼と歩くことにした。
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