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まだ少し冷える野外を2人で並んで歩く。
こうして夜一緒に歩いていると、去年の12月に雅臣と会った日のことを思い出す。泣きながら街中をうろついていた私を迎えに来てくれた彼。初めて彼と手を繋いで、知らない感情が芽生えた。
思い返せば、あまねくんは、私にとっての初恋の人。
あまねくんと出会うまでに色んな人とお付き合いをして、会いたいと思うこともあったけれど、どこかで彼氏、彼女の感情ってこんなものなのだろうと思っていた。けれど違った。
あまねくんといると嬉しいことばかりで、自分の言動1つ1つが失礼に当たらないかと不安で、彼の全てを独り占めしたいと思う。
今までの彼氏とのセックスだって、こんなものかと思っていた。
恋人はこんなふうに形だけの愛情を確め合って、繋がりを求めるのかと思っていた。けれど、それも違った。
好きだから触れたくて、触れて欲しくて、繋がっている間は、自分だけを見てくれていると安心できる。
あまねくんと出会うまで、セックスがこんなに心まで満たしてくれるものだなんて知らなかった。
彼と出会えたことで、今の私の人生はとても満たされている。
車までの数十メートルを、彼の暖かい手が私の手を包んでくれるから、またくすぐったい気持ちになる。今日会えてよかった。
「ねぇ、まどかさん」
「ん?」
「俺ね、ちゃんとするから」
「何を?」
「家族のこと。今日、まどかさんがいい家族だねって言ってくれたの凄く嬉しかった。ばあちゃんのことがあって、あそこでご飯食べさせるってすごく失礼だと思うんだ。でもまどかさん、最後まで自分のことよりばあちゃんのこと考えてくれた。そういうの、誰にでもできることじゃないと思う」
彼は歩きながら、ポツリポツリと語る。伏せ目がちで、憂いを帯びている。あんなに明るくしてたけど、本当は気にしてたんだなぁなんて感じとる。
「私だって仕事中はイライラしたりすることもあるよ。そんなに仏みたいな心は持ってないの。でも、おばあちゃんも客人がきてて言い出しにくかったんじゃないかな。認知症があるって聞いたのに、介護士としてそこに配慮できなかったのは私の落ち度だよ」
「えぇ!? 何でそんな考え方になるの? ……まどかさんって凄いな」
「凄い?」
「うん。色々尊敬する」
「尊敬って……大したこと言ってないよ?」
「ううん。やっぱりまどかさんがいいな。奏のこともさ、もう1回ちゃんと説得して、まどかさんの魅力わかってもらうことにする。絶対まどかさんと結婚するんだー」
そう言って繋いでいる手を上下に大きく揺らした。
「わっ」
腕の長いあまねくんに引っ張られて、爪先立ちになる。3回くらい繰り返して、遂によろけた私を抱き締めた。
「実家だとイチャイチャできないから」
そう声のトーンを落として、軽くキスをした。外でキスをされたのなんて初めてのことで、辺りをキョロキョロと見渡す。
「大丈夫。誰もいないよ。まどかさん、待っててね。すぐにでも入籍できるように婚姻届もらってくるし」
「……わかった」
一生懸命になってくれているあまねくんに、うちの両親への挨拶はまだなのに、気が早いんじゃないかなんてことは言えなかった。
とりあえず今は、やる気に満ちている彼と、同じ目標に向かって進んでいこうと決めた。
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