ラポール形成

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「あんたなんかに……あんたなんかに何がわかんのよ! モデルの世界のことなんて何にも知らないくせに! わかったようなこと言わないで! 本当に嫌い! 絶対に認めないから! あんたなんか大嫌い!」  ブツッ。  ツーツー……。  電話を切られてしまった。しかも大嫌いだと言われた挙げ句。私は正論しか言っていない……多分。  こんなにまともに話し合いのできない人間は初めてだ。これは時間がかかりそうだとホーム画面に戻ったスマホを見ながら思う。  都合が悪くなると聞こえないふりをするタイプだったか。  直接話がしたいだなんて言ってくるものだから、どこまでの討論に発展するのかと思いきや、彼女は逃げ出した。そこまで言いたいことがあるのなら、洗いざらいぶちまけてくれた方がこちらとしても気が楽だ。  あまねくんの妹だからと遠慮していたけれど、向こうがその気なら、こちらとしても負けられない。  私は、言い過ぎたとは思っていない。多少嫌味な言い方はしたかもしれないけれど。  彼女が言っていたことは、どれも自分を棚にあげての発言だ。自分の非を認められない人間に、私のことを非難されたくはない。  私が普段、自分の意見をはっきりと言えないのは、自分に落ち度があるような、後ろめたさがあるせいだ。  相手の顔色を伺って、なるべく衝突せず、穏便にこと終えたいから。しかし、彼女の場合は既に揉めてしまっているわけであって、今更こちらが妙に配慮する理由もない。  年齢だってあまねくんが年上だとわかっていて、それも私の魅力の1つだと言ってくれたのだ。  奏ちゃん以外の家族が温かく迎え入れてくれているのが、大きかった。そして、彼女の常識のなさは、おそらく私の年齢とは関係ない。  高校を卒業してそのまま社会人となり、ちやほやされてしまったものだから礼儀が身に付かなかったのか、それで許されていたのか。はたまた、それを教えてくれる人間が近くにいなかったのか。  どんな環境にあったにせよ、職場では教育する立場にあり、20代前半の子達を育ててきた私にとっては、まず人として彼女をどうにかしなければと思うのだった。  まともに自分の意見が言えなかった私がこんなことを思うのだから、人生ってわからない。  とりあえず、相当怒らせたようなので、あまねくんには一報入れておこう。 〔さっき奏ちゃんと電話したけど、私怒らせちゃったみたい。けっこう酷いこと言ったかも。でも私は、あまねくんの妹としてじゃなくて、1人の人間としてちゃんと関わりたいと思ったから、間違ったことは言ってないって思ってる。お兄さんとして心苦しい部分はあるかもしれないけど、見守ってくれると嬉しい〕  そうメッセージを入れておいた。  私の年齢を嫌がるわりに、これといった明確な理由が出てこなかったのが引っかかる。  結局のところ、何が気に入らないんだろう。まあ、全部だろうけど……。  煮え切らない思いを抱きながら、彼からの連絡を待つことにした。
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