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「待って。私も見たい」
どんな感じなのか私も見たくて、洗面所まで走っていく。首にはシルバーの細いチェーンが鎖骨のすぐ下まで伸びていて、その先にはシンプルな1粒の輝きがあった。洗面所の光に反射してキラキラと輝いている。
「綺麗……」
「店員さんがね、綺麗な人なら形があるものよりも、シンプルなものの方が似合うって言ってた」
「綺麗って……」
追ってきた彼が、鏡の前で私の腕ごと後ろから抱き締める。
耳元で囁く姿を客観的に見ることになり、ドキドキする。息を飲む音が思っていたよりも大きく聞こえた。
「綺麗でしょ? あ……まどかさんのことだよ」
鏡の中の彼と目が合い、耳介を彼の上下の唇で挟まれた。
いつもは感覚だけが訪れるそれが、今では視角までもがその情報を得ていて、恥ずかしくなる。
「待って……」
「何で?」
「ここじゃ……」
「ここじゃ? 何?」
「ここじゃダメ……」
「何がダメ? 俺まだ何もしてない。まどかさん、期待してる?」
クスクス笑って彼が言うから、この先のことまで想像してしまった自分が恥ずかしくて、否定する。
咄嗟に彼の顔を見上げると、そのまま唇を奪われ、すんなりと舌が入り込んでくる。
「んっ……」
ピチャピチャと響く水音が、余計に気分を高まらせた。
「俺があげた物を、まどかさんが身につけてくれると嬉しい。誰もが目に入るところでしょ。俺のまどかさんって気分になる」
私の顔を覗き込みながらそう言う。最近では、私の方が彼を独り占めしたいと思っていたのに、彼からもそんな言葉が聞けて嬉しいやら、感動するやら。
するっと彼の手が服の裾から入り込んでくる。しなる体を、彼に抱き締めるようにして押さえられ、彼の方を向いていた顔を彼の手によって鏡に向けられる。
顎を固定され、身動きができない。
その内に、胸の突起を刺激されて、自分の意思とは別に、甘い声が漏れた。
「ちゃんと、見てて。俺から見えるまどかさんの感じてる顔。いかにあなたが色っぽくて、可愛らしいかわかるから。こんな姿、俺とまどかさんだけの秘密にして」
脱衣場で服を脱ぐ度、自分の裸体を目の当たりにするけれど、それとは全く違う。自分でも知らない自分の表情。
目を逸らしたいのに、それを彼は許してはくれなくて、秘密の共有を迫られる。
「ほら、わかる? ここ触ると、まどかさんこんな表情するんだよ? エロいね……」
「ゃっ……見たくなっ……」
「ちゃんと見て。いつもどうやって俺に抱かれてるか」
「や……だ……」
「でも、いつもより濡れてる。興奮する?」
「違っ……あぁっ!!」
「もうそんなに慣らさなくても入りそう」
腰を後ろに引かれて、前屈みになった上半身を支えるため、鏡に手を置いた。その瞬間に彼の熱い圧が入り込んでくる。
「んっ……」
それに耐えようとすれば、繋がったまま彼の顔を私の顔の隣まで近付けるから、更に奥まで侵入し、鏡の中で彼と目が合う。
どうしようもない羞恥心が私を襲う。悪いことをしている気分になって、早くこんなことやめなくちゃと思うのに、体は彼からの快感を求めているのがわかる。
私、昔はこんなにいやらしい女じゃなかったのに。
彼の手によってこんなふうにされてしまったのか、もともと私の中に潜んでいた淫魔を呼び覚ましたのかはわからない。
ただ、このいけない戯に2人で堕ちていくのも悪くはないだなんて思わされてしまっている。
鏡に映るは何も私だけではなく、彼の熱い熱を咥え込みながら、彼の色っぽい表情を盗み見る。
何度も突き上げられながら、時にサディスティックな彼の態度に身体中を痺れさせた。
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