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情事後、まだ湿った体を寄せ合いながら、リビングで過ごす。彼の手が私の髪を撫で、穏やかな時間を取り戻しつつあった。
「今度の顔合わせで実家に帰るからさ、私もあまねくんとのこと両親に伝えてくるね」
「本当?」
「うん」
「でもさ、お姉さんが結婚するのに、まどかさんまで結婚したら、ご両親は寂しがらないかな? 姉妹2人だけだもんね?」
「両方嫁いじゃうから、一家には子孫が残らなくはなるね。でも、もううちら2人とも30過ぎてるんだよ? お母さんも、いつまで独身でいるつもり? って急かしてくるくらいだし」
「そう? でも大丈夫かな……まどかさんちお父さん、学校の先生でしょ? 厳しそう」
「よっぽど非常識でもない限り大丈夫だと思うよ。相手の人が無職とかだったら怒るかもだけど」
「それは、俺が父親でも怒るよ」
私が笑って言えば、彼もそう言って笑う。私が妹さんに反対されたように、彼も私の家族に反対されることを恐れているのだろう。
確かに高校教員といえば厳しいイメージはあるけれど、私達子供の人生はわりと自分で選択させてくれた方だと思う。そこまで頑なに反対される気はしなかった。
「うちの両親への挨拶も済んだら本格的に前進するね」
「そうだね。やっぱ結婚したらさ、双方の親族とも付き合いが出てくるし、俺達だけの問題じゃないと思うんだ。式も挙げたいからさ、ちゃんと全員に認めてもらいたいよね」
「あまねくん、式挙げたいんだ?」
「んー、というよりまどかさんのご両親に花嫁姿見せてあげたい」
「あまねくん……」
「まあ、うちのばあちゃんも楽しみにしてるみたいだったけど」
そう言っておかしそうに笑う。あまねくんは、私の両親のことも自分の親のように考えてくれている。そんな彼の家族だから、私も全員から祝福されたい。
雅臣との結婚を考えていた時には、そんなことなど思わなかった。
用紙1枚に記入して、市役所に届けてしまえばそれで結婚は、成立する。
どうせ家を出てしまうのだから、本人同士がそれで良ければ、家族との交流もそこそこに新たな家庭を築いてしまえばいい。そんなふうに安易に考えていた。
けれど、あまねくんとは違う。
彼の家は、もともと家族仲が良くて、その中に私が入る形になる。他人が入ってくるということに、嫌悪感を抱かれたままずっと過ごすのは、私としても心地いいものではない。
きっと今の若い内はいい。ただ、今後おばあちゃんがもっと体調を崩して介護が必要になったら、或いはゆくゆくご両親の介護や遺産相続の話になったら。関係性の修復を後回しにしていれば絶対に揉めることになるだろう。
表向きは仲良さそうにしていても、そんな土壇場になったら態度を豹変させるかもしれない。
それはその時にならなければわからないことだけれど、やっぱり向き合える時にちゃんと向き合っておいた方がいいと思う。
あまねくんも、そんな私の気持ちを察しているからこそ、奏ちゃんと向き合ってくれようとしているのだろう。
きっとこのままの状態で結婚に踏み切れば、彼女は疎外感を感じて、家族の誰にも心を開かなくなってしまうような気がした。
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