夜の空

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 噴火から数秒遅れで音がする。密集していた魔族たちを次々呑み込む溶岩は、驚くほどのスピードで旧都へ向かって流れ出す。羽のある魔族たちは空へと飛び立ち、無い者は必死に地上を逃げ惑う。 「すっげぇな。流石に紫が四人もいれば魔族なんて余裕でしょ」 「四人じゃない。あと一人いる」  旧帝都の上空で爆撃機の大編隊が旋回をする。また南側では大地に黒い穴が開いて、魔族を闇に呑み込んだ。 「だれ? これには書いてないけど」  ショウが手に持っていた地図を向ける。一分で済んだ、誰がどこから攻めるかを決めただけのミーティングでミツキが貰ったものだった。 「分かるでしょ? 私達、紫以上のあの人を」  彼の眼が大きく見開かれる。 「え、すげぇ! まぢで来るの!?」 「来るよ」 「雷の勇者、だよな?」 「そう。別大陸の艦隊を潰してから来るんだってさ。ほら来た」  雲一つない夜空から、真直ぐ雷光が降り注ぐ。青白い輝きは旧都の城を包み込み、コンマ数秒遅れた後に割れるような雷鳴を響かせる。 「ヤッベェ! 本物を見るの初めてなんだけど! 魔力もずば抜けてて、剣術や格闘術も完璧。それに頭もいいんだろ? 会えるかな? 会えたら俺サイン欲しい!」 「私もらったよ」 「羨ましい! いくらだった?」 「いや、なんか機嫌がよかったみたいでタダだった」 「すっごい。サイン貰うだけで金貨二十枚は取られるんだろ? いいなぁ」  帝都の空に青白い閃光が昇る。断続的にいくつもの雷が空へと伸びて、その度に内臓に響く低音が大きく轟いた。 「アンタ今緑でしょ。 なら一回依頼をこなせば金貨五十枚くらいにはなるんじゃないの?」 「なるけどさぁ。結局装備とか消耗品に使っちゃうし、食費とか諸々かかるから自由に使えるお金ってあまりないんだよね。それにおまえにも手伝ってもらってるから、その分ちゃんと出さないと」 「私のことなんて気にしなくていいのに。レナーム、焼き払え!」  次々と羽のある魔族たちが上がってくる。レナームが口元に集めた魔力を炎に変換し、鋭い熱線として放出をした。太陽神の炎を浴びて、跡形も無く蒸発をする。元の世界ではアメン・ラーと呼称され、崇められてた神格だった。  レナームの揺れる巨体に血を垂らす。等間隔で落ちる血は、装備させたハーネスに垂れ落ちる。充分な血が流れたところで、ミツキは傷口に意識を集中させた。  傷口が見る間に塞がれて、痕跡の一つも残っていない。ミツキは皮のポーチから、厚手の外套を取り出すと流した血の上へと覆い被せた。
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