夜の空

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 太陽とは程遠い、玉虫色の輝きが空に広がる。過去に一度だけ見た事のある輝きは、レナームが現れた時と同じだ。あの時も、玉虫色の輝きが空を覆い尽くし、空間の裂け目から黄金色の光を放つレナームが姿を現したのだ。  姿は見えない。おそらく屋内にいるのだろう。十数メートルをも超える、二つ目の城壁を突破して古城へと飛んで行く。ホバリングする戦闘機に、空間ごと魔族を断ち切る黒い竜の姿、そして六枚羽の竜の上には見た目の全く変わらない、機械の身体を持つ少女が溶岩を引き連れ飛んでいた。  青白い閃光が塔を破壊し上空へと伸びる。空中で雷の光を払い現れたのは、銀色の髪を持つ少女、雷の勇者だった。  世界で唯一、紫超の白ランクに達した彼女は幾度となく戦火に身を投じて来た。戦術的に無敗を誇る彼女の姿に、ミツキやショウを初め、あこがれを持つ者は多い。雷魔法の使い手も、勇者もこの世界には数いれども、大抵の場合においては雷も、勇者も彼女の事を指す代名詞だった。  折れたレイピアを投げ捨てて、新しく剣を抜く。片手剣の刃に雷を走らせると、自身の身体をを雷に代え稲光と共に塔の中へと戻っていった。 「ねぇ、ミツキ見た!? 今、雷の勇者が――」  雷鳴と呼ぶより爆発音が轟き渡り、すべての窓から光が漏れる。塔の崩壊が始まると、同時に黒い炎が炸裂し落ちる瓦礫を吹き飛ばした。 「ちょっと、レナームストップ! まだ行っちゃダメ! レナーム」  飛来する巨石を縫って、レナームは羽ばたき塔に迫る。崩落をした塔の壁から、巨大な人影が姿を現す。レナームはミツキの言葉に耳も貸さず、羽毛を炎へ変えていく。 「レナーム! ダメ!」  装備していたハーネスが焼け、溶け落ちて消え去った。全てを焦がす太陽の炎に身を焼かれながら、ミツキはレナームをなだめに掛かる。焼けた先から治癒させながら、ナイフを抜き首元へと突きたてた。  痛みに悶え暴れ出すレナームに、ミツキは必死にしがみ付く。刺したナイフを炎で溶かして、頭を大きく左右に振った。激しい熱と勢いに、ついにミツキも耐えかねて。明るく輝く夜の空へと投げ出される。全身を炎と化したレナームが鳴き声を上げると、一秒にも満たぬ溜めの後、巨大な火球を塔に放った。  黒い火球が塔から放たれ、レナームの火球を迎え撃つ。二つの火球がぶつかった時、一気に温度が上昇し、膨張した空気が熱をもって炸裂した。  強烈な熱波の煽りを受けて、ミツキの身体が宙を舞う。大量に飛ぶ瓦礫の中から見えた最後の光景は、黒い炎を受けて落ちる太陽神の姿であった。
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