残されたもの

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医者の道を選ばなかった俺のことなど必要ないと言われているようで、俺を産んだあと父に見向きもされなくなった母の寂しさが、なんとなくわかった気がした。 家に居場所がなかった分、外に出るとこれでもかと言わんばかりに誰にでもいい顔をしていたおかげで、友達だけは多かった。 性別も年齢も問わず誰とでも仲良くしたし、誰に対してもできるだけ優しく親切にした。 そして母の言っていた通り、女の子には特に優しくした。 そんな俺に初めて彼女ができたのは中2の時だった。 その子のことが特別好きだったわけではないけれど、好きだから付き合って欲しいと言われ、断ったら傷付けるかなと思ってOKした。 部活が終わってから一緒に下校したり、部活がない日や休みの日には手を繋いでデートもしたし、いっちょまえにキスもした。 彼氏として目一杯優しくしたはずなのに、その子との交際は2か月ほどで終わった。 俺の明るくて優しいところが好きだから付き合って欲しいと言っていたはずなのに、しばらくするとその優しさが自分に対してだけではないことで不安になり、自分以外にも付き合っている人がいるのではないかと疑ってしまうので、付き合うことがしんどくなったらしい。
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