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幼い頃に生き別れたまま一度も会っていない実の母が今どこで何をしているのかは知らないけれど、祖母が母のことを俺に一言も話さないところを見ると、きっと俺のことなど忘れて幸せに暮らしているのだろう。
そんなことを考えていたらつい長湯してしまい、のぼせそうになりながら湯舟を出ようとすると、葉月が浴室のドアをノックした。
「志岐、えらい長風呂やけど大丈夫?寝てもうてへん?」
「ちゃんと起きてるよ。一緒に入る?」
「入らへんわ!志岐がはよ上がってくれんと私が入られへんから待ってんねん!」
相変わらずつれない新妻だ。
葉月が素直に甘えたり簡単にデレたりできない性格なのはよくわかっているし、そんなところもたまらなく可愛いのだけど、神様の前で永遠の愛を誓った今日くらいはもう少しデレて欲しい気がして、ちょっとしたいたずら心がわき上がる。
「えー、そんなこと言わずにさぁ。俺は葉月が入って来るの待ってたんだけどなぁ」
「待たんでええからはよ上がって!」
「いやだ!葉月が入って来るまで動かない!」
俺が子どものように駄々をこねると、葉月は浴室のドアを勢いよく開け、ツカツカと中に入ってきて俺の腕をつかんだ。
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