残されたもの

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夫婦になっても甘やかしてもくれず、ろくに一緒にいてくれない父との結婚は、母にとってとても寂しいものだったのだろう。 俺が成長して少しずつ手が離れて来ると、母は家を空けることが多くなり、次第に俺には見向きもしなくなった。 家にこもっていたときのように寂しそうな顔をすることもなく、きれいに着飾って楽しそうに出掛けて行く母の姿を見るたびに、俺はいつも言い様のない寂しさに襲われた。 そして小学校を卒業した直後の春休み、俺がいつものように1週間ほどいとこの家に遊びに行っている間に、母は家を出ていった。 いとこの家から戻ると珍しく父がいて、母と離婚したことを知らされたのだ。 どうやら母にはずっと前から、惜しみなく愛情を注いでくれる優しい男がいたらしい。 突然母がいなくなったことや、俺には何も言わず出ていったことがショックではあったけれど、まだ子供だった俺にはどうすることもできなかった。 俺に残されたのは、「志岐は男の子なんだから、女の子にはうんと優しくしなきゃダメよ」という母の口癖と、突然母を失った寂しさ、そして以前より少しばかり家にいることの増えた父との時間だった。 父と話すのはもっぱら成績や進路のことばかりで、友達のことや3つ歳上のいとこの潤くんに憧れて入ったバレー部でのことなどは聞いてくれなかった。
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