お見送り飯

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 その週の休日に、私はそのお店に行く事にした。つまり、新幹線を使って。  オムライスを食べに新幹線を使うというのもバカバカしいが、私は亡くなったその人の思い出の料理を聞くと抑えられなくなってしまう性分なのだ。  二時間近くかかって、JRと私鉄が乗り入れる大きな駅で新幹線を降りた。駅を出ると、何台も行きかう大きなバスターミナルの向こうに商店街が探す必要もなく見えた。あとは、その店が営業しているかだ。これまでにもお店を畳んでいたり、別の町に移転していたりと空振りもあった。  商店街は昔ながらの店舗もあれば、現代の店もある。例えば、コロッケを売る肉屋があれば、早い・安い・美味いの牛丼屋がある。骨董品屋とヤング向けの服屋。レトロな喫茶店と全国チェーンのコーヒーショップが複雑に入り混じっている。  しばし歩いて、目的の店を見つけた。が、目を疑った。  店の名前は<長寿庵>。しかも、そば屋。  てっきり、オムライスと言うから間抜けにも<チョウジュアン>とカタカナで考えていた。本当に、洋食のオムライスがあるのだろうか?  私はコンビニやファミレスは興味がなく、個人の食堂が結構好きだ。そんな自分でも、半信半疑で引き戸を開けて中に入ると店内は間違いなく、そば屋。小さな座布団を置いた木のいすと七味唐辛子の缶と割り箸入れの立つ木のテーブルは定番の姿。若い女性店員に「空いてる席にどうぞ」と言われたので適当に腰掛けると、壁にかかるお品書きに目を通す。  ・・・・・・あった。
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