お見送り飯

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お見送り飯

 私は葬儀社に勤めている。黄泉の国に旅立った人に化粧し、衣装を着せ、納棺し、家族や親戚と共に火葬場に足を運び、遺骨を骨壷に納めることを何年もしてきた。  職業柄、亡くなった人は色々な諸事情を持っているのを知る。家族に看取られながらもあれば、事故で亡くなる、突然死、孤独死、誰にも相手にされずにこの世を去る人。  そのバラバラな事情を持つ人達でも、最期に食べたかった物がある。  私は、食べられなかった人の為に、自発的に食べて上げている。  自己満足や冒涜と思われそうだが、そうしないとその人が気の毒な気持ちになる。同僚や遺族から自然に聞く事もあれば、日記に書いてあったり、記念の品物があったり。  今日も洋服式の喪服を着た奥さんからその話を聞けた。 「主人のお葬式、ありがとうございました」 「お気に召していただき光栄です」  私は軽く頭を下げてから、会話を続ける 「奥様は地元ですけど、御主人は違う県の人でしたね?」 「ええ。国鉄時代にこちらにきたんです」 「こくてつ?」 「今のJRです。あなたの世代だと知らないですね」 「すみません。鉄道ファンじゃないので」  時代と年齢の差の<常識>に奥さんはクスッと笑う。 「まだあの時は新幹線が開通したばかりで、主人はそれにすっかり魅了されて」 「運転手さんだったんですか?」 「いえ、整備士です。隣町の車両点検場で働いていたんです」  そういわれると、確かにある。 「それで、主人の出身地は新幹線の駅がある所なんですけど、その駅前商店街のお店のオムライスが学生時代から気に入っていて」 「へえ、オムライスですか」 「私も何度か連れて行ってもらったんです。なにしろ、入院中も食べたいとぼやいてましたから」 「そうですか」  やがて、その人の息子さん夫妻に呼ばれると、まだ小さいお孫さんと並んで送迎バスに乗り込んで式場を去った。  早速、私はそのオムライスが無性に食べたくなった。
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