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部室にて
あの日。夢吾とケンカをして、気持ちを再確認した日から、一ヶ月が過ぎた。
色んな事を語り合ったからか、前の様な壁を感じることは無くなった。今は、丁度良いバランスを保てているんだと思う。
有吾は最近、よく笑うようになったと思う。そして、スキンシップも増えた。そんなの俺達にとっては、些細な事のはずなのに。
過去に触れ合った唇は、あの日の焼けるような熱を求めている。
朝練の着替えのため、部室に向かう。すると部室から、何やら騒がしい気配がした。またマネージャーの山東の話で、盛り上がっているのだろう。全く、飽きない奴らだ。
一声かけて部屋に入ると、騒いでいた皆が黙り混む。そして、無言で俺を見つめる。なんだろう。そう思いながら、ロッカーに近づく。すると、同じクラスで友人の村井に声をかけられた。
「利人、お前……。大丈夫か」
「大丈夫って、何が?」
村井は何故か、心配そうな顔をしている。でも俺には、なんの事だか、わからない。
唯一、心当たりがあるとすれば……。
「夢吾に、こんな事されて……」
村井にスマホを見せられる。そこには、去年の花火大会の自分と夢吾が写っていた。しかも、それは──。
「これって……。こんな写真、誰が撮ったんだよ!?」
その写真は、花火大会の日に撮られたものだった。村井の手からスマホを奪い取り、まじまじと見つめる。写っているのは間違いなく、俺と夢吾だった。
誰が撮って、村井に渡したのか。そんなの聞かなくたってわかる。マネージャーの山東に違いない。身体中から、血の気が引いていくのがわかった。俺の動揺を見て、部員達がざわめく。
「マジかよ」
「夢吾のヤツ、酷いな」
「キモい」
「アイツと同じ部室とか、無理……」
写真の写り方のせいなのか。あの時、夢吾が俺の腕を掴んだからなのか。
部員の皆は、俺が夢吾に無理矢理あんなことをされたと思っているようだ。
「待ってくれ!悪いのは──」俺なんだ。そう言いかけたとき。
「皆がイヤなら。オレは部室を使わない。それで、良いか?」
いつの間にか部室の前に居た夢吾が、キッパリと言い切る。そして部室には入らず、その場を離れた。
「夢吾!」
夢吾を引き止めようとした俺の肩を村井が掴んで止める。
「行くな、利人。同類だと思われるぞ!?」
その一言に背筋が凍る。夢吾との事を知られたくないとか。そんな単純な話じゃなくて。同性に惹かれている自分への、残酷な現実を見せつけられて急に怖くなった。
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