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呼び出し
夢吾を追いかけようとした足が止まる。本当に追いかけなくて、いいのか?
胸の奥に渦巻く感情は、誰に向けられている?
俺にとって一番大切な人は、誰なのか。グッと奥歯を噛み締める。そんな事、考えるまでもない。俺には夢吾しか居ないんだ。
「ごめん。俺、夢吾を放っておけない」
心配する村井の手を振り払い、俺は夢吾を追った。
初めてなんだ、こんな気持ち。何を失っても、誰を傷付けても、守りたい。側に居たい。ずっと夢吾の隣に居たい。ただ、それだけ。
「夢吾!」
声をかけても、夢吾は振り返らない。猛スピードで、ぶつかるように夢吾を引き留める。誰かに知られても、構わないんじゃなかったのか。そんな思いを抱えたまま。
「夢吾……!」
「悪い。今は、一人にして……」
引き止めた夢吾の目は赤く、涙ぐんでいた。そうだ。夢吾は小学生の頃から、ずっと俺を想ってきた。小さな夢吾は、さっきの俺よりも、もっと怖い思いをしていただろう。俺の知らない所で。
そんな夢吾を思うと、胸が張り裂けそうなくらい、痛くて苦しい。出来ることなら今すぐ小学生時代の夢吾に会いに行って、抱きしめてやりたい。俺も夢吾の事が好きだって。
午前の授業が始まる少し前、担任の若石先生に声をかけられた。放課後、話があると。
理由は、簡単だ。俺達の事が、バレたんだ。教室の村井を見ると、あからさまに動揺している。胸の中で、怒りと疑問が膨らんだ。
高校生が誰かと付き合うのは、悪いことなのか?
それとも相手が同性だから悪いのか?
どちらも悪いと言うのなら。今すぐ、不純異性交遊している奴等をまとめて呼び出して「そんな付き合いは、やめろ」と、止めればいいのに。どうして自分達だけが、呼び出しを受けるのか。俺は苛立ちを隠せずにいた。
休憩時間に夢吾のクラスへ行ったけれど、会えなかった。体調が悪いからと、早退したそうだ。あのとき引き留めていれば良かった。そう後悔したけれど、今さら何も出来やしない。
誰かと話す気になれず、休憩時間と昼休みは教室を出て、一人で過ごした。
放課後、言われた通りに生徒相談室へ向かう。部屋には、夢吾の母親が先に来て、待っていた。同席していた若石先生に座るように促されたが、居心地の悪さから断ってしまう。
夢吾の母親は家に遊びに行くと、いつも優しく出迎えてくれた。久し振りの再会が、こんな形になってしまって辛い。俺は、まともに挨拶も出来なかった。
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