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「主人と相談してからに、なりますが……。学校は、責任を取って辞めさせます……」
夢吾の母は泣きながら、とんでもないことを口にした。担任も俺も、もちろん止める。
学校を辞めなければいけないような事は、何もしていない。責任なんて何に対して取ればいいんだろう。夢吾は黙って俯いたまま、一言も喋らない。
「夢吾! それで、いいのか!?」
「……オレは。……いいよ、もう」
何かを諦めたみたいに、投げやりな夢吾。どうしよう。どうすれば良い?
わからない。何が正しくて、何が間違いなのか。俺が告白したのが、悪かったのか?
だけど、どうしても夢吾への想いを伝えたかった。あの日、自分の気持ちを押さえきれなくて。
その時だった。扉が力強く開かれたのは。現れたのは、俺の母親。
「母さん……」
気の強い母は、俺の顔を見るなり怒鳴り声をあげた。
「このバカ!! 人様の大事なお子さんに、何してんの!!」
耳をつんざくような声に、何も反論できない。母に、知られてしまった。夢吾との事をどんな風に説明すればいい?
夢吾の事が、好きで好きで、堪らないなんて、そんなことを。
親に知られる。それがこんなにも気恥ずかしく、居たたまれないなんて、知らなかった。
「久間さん、夢吾君。悪いのは、全て、うちの利人です。申し訳ありませんでした! 今後は、二人きりでは会わせませんので……」
「ちょっと、待ってよ。俺達、部活だって一緒だし……」
「だから、佐和を! 妹と一緒に行動させます。ですので、どうか。どうか、お許しください! 学校だけは、続けさてください!」
「母さん……」
母が夢吾と夢吾の母親に、深々と頭を下げる。二人きりで会わせないとか。佐和と行動させるとか。許してほしいとか。俺達は、そんなに悪い事をしてしまったんだろうか?
「母さん。俺、真剣なんだ。本気で、夢吾が好きなんだ」
俺の言葉を聞いた母は、俺をきつく睨み付ける。
「母さんだって、わかってるわよ! 利人と……夢吾君が。遊びで、そんな事しないって。わかってるから。だから、辛いのよ……!」
母の瞳には、涙が浮かんでいた。唇を噛み締めて、泣くのを堪えている。母のこんな顔を初めて見た。
「母さん……」
「真剣なら。本気で、好きなら‼ どうして、卒業まで待てなかったの!? 高校総体だって、近いのに……。もし、こんな事が問題になったら、夢吾君の将来はどうなるの? 今の利人に、責任なんて取れないでしょう⁉」
夢吾の『将来』に『責任』を取る。その言葉の重さに、ぐうの音も出ない。もしも、夢吾の夢が叶わなかったら。夢吾が走る事を奪われてしまったら。俺は、責任を取れるんだろうか?
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