ごめんなさい

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ごめんなさい

「痛いな……」  夢吾の拗ねた横顔に、胸の奥が(うず)く。その表情を切り取って、自分だけのものにしてしまいたい。高校生らしい付き合いがどんなものなのかは、よくわからないけれど。胸の奥に眠る、この気持ちを抑えなければいけないことは、わかった。 「一緒に、帰ろうな」  夢吾は頷いただけで、はっきり答えない。俺は、ちゃんと笑えているのかな。今までは、どんな風に過ごしてたんだろう。  あの花火大会の日から、わからなくなってしまった。夢吾との距離感。夢吾との話し方。好きなのに、遠くなる。触れ合って近づいたはずなのに、心と体は寂しさを感じていた。  自分のしたいことは、わかるのにな。夢吾と手を繋いで歩いたり、自転車に二人乗りしてみたい。癖の強い夢吾の髪に、気軽に触れてみたい。これが高校生の男女交際なら、きっと。これくらいの事は、出来るのにな。 「仲が良いのは、いいことだけど。悪目立ちしないように、気をつけてね?」  若石先生に念押しされ、俺と夢吾は、素直にはいと返事をする。先生は今まで通り普通に接してくれて、それが俺には、とても嬉しいことだった。  職員室へ戻る若石先生と別れ、それぞれのクラスに戻る。教室には、もう誰も残って居ない。カバンに教科書を詰めていると、先に支度を終えた夢吾が、教室に入って来た。 「悪い。ちょっと待ってて」 「……利人は、真面目だよな」  真面目? そういえば夢吾、いつの間に帰り支度を終えたんだろう。手には軽そうなカバンを提げている。  不思議に思っていると、熱くて弾力のある、懐かしい感触が頬に触れた。驚いて夢吾を見ると、いつもの微笑みを浮かべている。 「なっ……!」 「これくらいは、するでしょ? 高校生なんだからさ。オレ達」  でも、ここは教室で。さっき、先生に注意されたばかりなのに。俺の気持ちも、知らないで……。 「……今度は。かばって、やらねえからな?」  何かを期待するような夢吾の微笑みに、心がざわつく。いつ先生やクラスメイト達が戻って来るか、わからないのに。胸に(くすぶ)るあの熱と、誘惑には勝てなくて。気がつくと、俺は夢吾の唇を奪っていた。  先生、ごめんなさい。俺は……俺達は。素直な良い子じゃ、ありません。
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