● 回想 ●

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● 回想 ●

 久保田さんから告白されたのはあまりに不意の事で、何の心の準備もしてなかった。 「未南、好きなんだけど」 「…………………え?」  それは、入社して間もなかった僕のポカのせいで久保田さんを残業に付き合わせてしまっての、終電間際の駅への道すがらだった。  久保田さんが僕の腕を掴んで思いがけない告白をしてきて…一瞬どういう意味でそれを言ってるのか分からなかった。  憧れの上司は、こんな夜中まで仕事してたとは思えないくらい爽やかで、疲れた顔なんか少しも見せていない。  しょうがないな、付き合ってやるよ、って僕の髪をくしゃくしゃにして微笑んでくれた、人のいい精悍な瞳が真摯に見詰めてくる。 「誰にも取られたくないって思ったから、俺のものになってほしい」 「………………えぇ?」 「未南の事狙ってる奴多いんだ。 正直、焦ってる」 「狙ってる奴って……? あの…久保田さん、何を…」 「俺を物言いたげに見てくる未南も、同じ気持ちなんだろうと思った。 違うとは言わせない」  待ってよ、待って。  僕、久保田さんのこと好きかもしれないって漠然としか思ってなかったのに、なんでバレたの?  ……しかも狙ってる奴がいるって、なんの事…?  その時、これは夢なんじゃないかって思った。  優しくて頼りがいのある久保田さんの人間性に、知れば知るほど惹かれていたのは事実だ。  でも、僕も久保田さんも男だし、何しろ久保田さんは女性社員達の羨望の的なんだ。  そんな久保田さんを好きかもしれないと思ったところで、何も始まりはしないと諦めてたから…僕は、考えないようにしてた。  それなのに、こんな事で絶対に冗談は言わないであろう久保田さんは尚も僕を射抜いていて、その信憑性を伝えてくる。 「未南、分かってるんだ。 未南の気持ちは」 「そ、そんな事言われても…」 「未南がどんなポカしても、俺なら全力でカバーしてやれる。 仕事中だけじゃなく、未南のプライベートの時間も欲しいんだ。 …ダメか?」  腕を掴んでいた大きな手のひらが、呆然とする僕の手のひらへ移動してきゅっと握った。  どうしよう…これはきっと、本気で言ってくれてる、んだよね…?  男である僕にこんな告白をしてくるくらいだから、疑ったら失礼にあたっちゃうかもしれない。  手を握ったまま、少しずつ僕との距離を詰めてくる久保田さんを見上げてみる。  ………ドキドキ、してきた。 「あ、あの……」 「未南は俺の事が好きだよな? 他の誰でもなく、俺の事が」 「えっ……! なんで、そんな…」 「目を見りゃ分かるし、態度にも出ている。 わざわざおかわり頼まなくても、俺だけデスクで飲むコーヒーとお茶が途切れない。 未南は俺の事だけ、特別扱いしてくれてる」 「…………………っっ!」 「まだあるぞ。 俺が回した仕事を一番にやろうとするだろ。 どんなに急ぎの案件あっても」 「…………………!!」 「あとな、何故か散らかしたデスク周りが毎日片付いてるんだ。 誰が掃除してくれてんのかと思ったら、未南がしてるそうじゃないか」 「……………!!!」 「未南、俺だけにしろよ。 特別扱いは俺だけがいい。 他にも多々ある特別扱いが、俺以外の男に向けられると嫌なんだ」  久保田さんはそう言うと、僕を優しく抱き締めてきた。
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