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「未南はいつも一歩引いてるよな。 俺との間にある壁をなかなか壊してくれない。 未南とはもっと深い場所で繋がっていたいのに、……一年経って俺は、未南の気持ちが分からなくなっている」 「……っ久保田さん……!」  この手のひらからも、久保田さんの僕への愛が伝わってくる。  バリバリ仕事をこなす、いつも爛々とした瞳が今は微かに揺れていた。  恋人だったら必要不可欠な「好き」って気持ちを、僕がちゃんと言ってない、から…。 「未南、俺は未南の事が好きだよ。 天然なとこも、失敗しながら一生懸命仕事を覚えようと頑張る姿も、健気で可愛くてたまらない。 さっきみたいな若造にさえ嫉妬してしまうくらい、俺は余裕がないんだ」  笑ってくれていい、と苦笑する久保田さんの表情は、本当に余裕が無さそうだった。  そんな……僕がこんなに寂しい顔をさせちゃってるの…。  大好きです、って一言言えば良かったのに、僕はつまらない謙遜で自らを縛って久保田さんを不安にさせてしまっていた。  久保田さんはいつでも、こんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれているのに。 「……久保田さん、ごめんなさい…っ。 僕、…自分に自信が無かったんです。 僕は久保田さんの恋人で居ていいのかなって、毎日申し訳ない気持ちでいたから…」 「…………未南……」 「好きです、久保田さん。 僕は久保田さんの事、好きです。 怖くて言えなかった、けど…これは本当に無意識でした。 ごめんなさい…」 「未南、謝らなくていい。 …安心した。 燻っていた思いを正直に言ってもらえて」 「久保田さん…」  僕はバカだ。  久保田さんの言う通り、僕は何も、自分の気持ちを伝えた事が無かった。  隣に居ていいのかな、僕じゃ久保田さんに相応しくないんじゃないのかな、って、一人でグジグジ悩んで。  ちゃんと、僕の思ってる事を正直に伝えていれば、「好き」の気持ちをたっぷり与えてくれる久保田さんは受け止めてくれたと思うのに……。  「好き」という想いは、言葉にするだけで魔法みたいな効果を持つってことを、僕はやっと気付いた。  元カノさんが現れて嫌だなって思ったのも、知らない青年に抱き締められてた僕を見て嫉妬した久保田さんも、ちゃんと…好き合ってる。  同じ気持ちだ。 「花火、見たいよな?」 「え、………?」 「花火大会は来月に持ち越して、今は場所を移動しないか」 「場所を移動…? どこに行くんですか?」 「野暮な事を聞くな。 付き合って初めて好きって言ってもらえたんだ。 一年越しの未南の告白に俺が舞い上がらないはずないだろ」 「…………っっ!」  ほんの少し照れくさそうに言った久保田さんは、頬の赤みを見せまいとしてなのか素早く僕の唇を奪った。  熱い。 久保田さんの手のひらも、唇も、とても熱い──。  僕はファーストキスの時みたいに瞳を開けていた。  余裕の無い久保田さんがちょっとだけ可愛く見えちゃった、なんて言ったら、また怒られそうだから……秘密にしとくんだ。
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