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 今まで食べた事が無かった、このツヤツヤしてまん丸な見た目がそそるりんご飴は、思った以上に甘くて美味しい。  外側のカリカリした飴を咀嚼していると、心配そうな久保田さんの瞳とぶつかる。  見詰め合う形になってしまいハッとして、まだ少し恥ずかしい僕はすぐに視線を逸らした。 「人多いから酔ったのかなと」 「…いえ、そんな事ないです! 美味しいです!」 「そうか? なんか今日ヘンだぞ、未南」 「そんな事ないですよ! 楽しいです、お祭りなんて学生の時以来ですもん」 「……ならいいけど」  ……ダメだ。 僕が久保田さんの隣に居ていいのか…なんて、今考えるべき事じゃない。  せっかくこうして久保田さんが誘ってくれたんだから、思いっきり楽しまないと…ね。 「未南、花火がよく見える場所に行こうか」 「いいですね! 穴場があるんですか?」 「らしいぞ。 会社の連中に教えてもらった」 「そうなんですか! わぁ…楽しみです!」  屋台は粗方堪能したから、あとは約一時間後に開催される花火大会を待つのみだ。  念願だったりんご飴は甘党の僕にはとても美味しくて、あっという間に食べ終えてしまった。  デザートも食べたし、これから花火が美しく見える穴場へ連れて行ってもらえるなんて、ワクワクする。  久保田さんと僕が釣り合うかどうかなんて、やっぱり、今モヤモヤしてちゃ勿体ないよね。 「なぁ未南、浴衣似合うな」 「………っ!」  りんご飴が刺さってた棒をどこに捨てようかなってキョロキョロしてたら、また久保田さんに腰を抱かれた。  しかも耳元で囁かれて、急に心臓がバクバクうるさくなってくる。  外ではあんまりスキンシップを取ってこないのに、今日の久保田さん…なんかすごい大胆なんだけど…。 「……早く脱がしたい」 「────!!」 「ふっ…。 顔真っ赤」  そんな……そんな事をこんな人いっぱいな中で言わないでよ…っ。  久保田さんがクスクス笑う横顔を見ながら、僕は熱い頬を触ってみた。  ただでさえ暑い八月の熱気とこの人混みで、とても涼やかとは言えないっていうのにもっと体が熱くなっちゃったよ。  腰を抱かれたまま、僕の歩幅に合わせてゆっくり歩を進めてくれる久保田さんに付いて歩く。  ───すごい。  すれ違う女の人達がみんな久保田さんを振り返ってる。  中には久保田さんを見た後、隣にいる僕を値踏みするようにジロジロ見てくる人までいて、居心地が悪かった。 「──あれ、真ちゃん?」 「ん?」  全員が僕を見てるわけじゃないのに、周囲の視線が嫌で、俯き加減で久保田さんに寄り添ったその時だった。  前方からやたらと明るい女の人の声がした。 「おー、加奈か」
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