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言われた事ぜんぶ、僕はほとんど無意識にやっちゃってる事だった。
覚えの悪い僕に足を引っ張られてるかもしれないと思うと申し訳なくて、せめて気は利かすようにしてたけど……それが好意につながるものなの…?
───いや、僕は本当に、無意識でやってたのかな?
いつか久保田さんが気付いて、少しでも僕を気にしてくれたらいいのにって、実は思ってたんじゃないのかな…?
「………久保田さん…」
名前を呼ぶと、僕を抱き締めてる腕に力が込められて苦しくなった。
久保田さんから香る香水の匂いが、ひどく心地良い。
ずっとこうしてたいって、僕の心が叫び始めた。
「未南……返事をくれ。 俺が喜びそうな返事を」
「……で、でも…いいんですか、本当に…」
「いい。 未南が欲しい。 未南も俺を欲しがってくれ」
力強く抱き締められた僕は、瞳を瞑って、久保田さんにバレないように二回深呼吸した。
本当に、本当にいいんですかって心の中で問うてみても、ドキドキは増す一方だった。
「久保田さん、……その……よろしく、お願いします…」
「ふっ…斬新な返事だな。 こちらこそ」
耳元にかかる吐息がくすぐったい。
終電間際の寂しい路地裏は、野良猫くらいしか通らない真っ暗な通りだったけど……久保田さんの顔がゆっくり近付いてきた事で、辺りが僕らだけの世界になった。
唇が触れ合った瞬間、胸のドキドキがピークに達して、縋るように思わず久保田さんのスーツの腕部分を掴む。
ファーストキスだったからすごく緊張したけど、久保田さんが僕とキスしてるなんて信じられなくて瞳を開けてたら、少しだけ笑われた。
「ふふっ…熱視線を感じた」
「あ…っ、すみません…!」
「いいよ。 キス、嫌じゃなかった?」
「………はい。 ありがとうございます…」
「何でありがとうなんだよ。 やっぱ未南は天然だな」
天然じゃないですよ!といつもの調子で返せなかった僕は、ほっぺたが熱くて熱くてたまらなかった。
──本当にいいのかな、僕で…。
こんな事を思いながらも、久保田さんの手のひらが優しく僕の髪を撫でてくれる、その温かさにうっとりした。
終電ギリギリまで寄り添い合って離してくれなかった久保田さんは、外であろうとなかろうと平気で僕の肩を抱いて密着してきた。
周囲に僕との関係を見られたとしても平気だっていう、久保田さんの男気ある覚悟なのかなと思うと嬉しかった。
──その日から、僕には勿体無いくらい眩しい久保田さんという男の恋人が出来た。
職場でもプライベートでも一切変わらず僕を特別扱いする久保田さんに、僕も同じ気持ちだよって想いを込めて、出来るだけ特別扱いをしてみた。
たまたま他の社員さんにコーヒーを淹れてあげただけで「なんでアイツに」と不機嫌になる、子どもみたいなヤキモチを焼かれながら。
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